和食は奥が深いので、和食の道具をご紹介すると、あれもこれもと思い浮かんでしまいます。 特に、この時代に忘れられてしまっている確かな道具をセレクトしてご紹介してみます。 そこには、理があること、繊細な感覚があったことも分かります。
はじめに、大根おろし器です。 便利なフードプロセッサーは、あくまで切るという作業をする道具ですが、 大根おろし器はその名の通りおろすのです。 切るとおろすでは何が違うのか。おろすは、繊維を壊さず、水っぽさがないと表現したら良いでしょうか。 その食感は違って参ります。繊維から、繊細という言葉も生まれたのでしょうか。 繊細な和食の味わいは、この大根おろしにも潜みます。 まずは、おすすめしたいのが、きちんと手打ちで目立てた 大矢製作所 本目立銅ハイスピードおろしです。 この味をスタンダードにしてもらえればと思います。 こちらの地方では、大根おろしに小魚のちりめんじゃこを振りかけて酢醤油でいただきます。 焼き魚、たまご焼きに添えても良いでしょう。 天ぷらの天つゆ、うどんや蕎麦の薬味としても楽しめます。 大根おろしは、新鮮な大根をおろすだけ。ただ、道具を選びます。 本来の大根おろしを味わっているでしょうか。
次は、擦(す)り鉢です。こちらもフードプロセッサーで代用できますが、切ると擦るでは違います。 この違いにも鈍感になっているのかもしれません。 擦るとは、擦り棒で力の加減ができます。食材によって調整もできます。 この加減によって食材を壊してしまうことなく、美味しさを引き出すとも言えるでしょうか。 そして、何と言っても、和食では欠かすことのできないゴマという食材を調理することができます。 ゴマを擦ることによって、あの独特の芳香が漂います。 また、長芋をおろして擦ることによって、出汁と絡ませれば、美味しいとろろ汁ができます。 魚肉をすり身にして、だんご状にしたものを、出汁のなかに浮かべれば、つみれ汁の出来上がり。 これらを擦り鉢で擦ることによって、たっぷりと愛情がこもるように感じます。 今回は、こちらの駄知すり鉢8寸をおすすめいたします。 いつしか、あの味恋しやで、おばあちゃんの時代で止まっていないでしょうか。
最後に、魚焼き器です。こちらは、煙がたつとのことで家庭では避けられて来ました。 また、ガスコンロにセンサーが付いてしまったことによって、制約される状況も生じています。 魚はフライパンで焼くこともできますが、フライパンはあくまでフライという調理であり、 日本語の焼くとは違っているのです。 フライパンは、魚がフライパンに密着して加熱しますが、本来の焼くは、魚と道具の間に開放空間があります。 そのため、魚の表面がカラッとした焼き上がりとなります。 フライパンでは、開放空間がないため、密着したところは、じめっとした仕上がりになりがちです。 そこで、カンダ焼き上手(片手)であれば、開放空間があるために、 本来のカラッとした焼き上がりを実現できます。これぞ、本来の焼くでしょう。 また、コンロに脂が落ちにくい構造となっていますので、煙もたちにくい。 いつしか、この焼き魚の味を忘れてしまっていないでしょうか。
おろす、擦る、焼くという行為が何であるのか。 これらの道具には、先人の知恵が詰まり、理のあることが分かります。 そして、先人たちは、繊細な味にこだわる繊細な感覚を持ち合わせていた。 道具と言うよりも、その本質は人間なのです。 和食にとっての命でもある人間の理と感覚が鈍ってしまえば、和食は滅んでしまいます。