ご年配のお客様が、なにげなく「大根おろしは、銅のおろし金だよなあ〜。」とポツリ。 小林カツ代さんの今はなき、ネット付大根おろしから始まり、 オクソの大根おろしなど、 フライパン倶楽部では、おろしやすさばかりに今まで目が向いていました。 食感やおいしさのことは想定外。 お料理道具店としては、お恥ずかしいことですが。 極端な例ですが、フードプロセッサーで大根もおろせますが、 やはり水っぽく、食感が違うことは、はっきり分ります。 それは、おろすというよりも、潰すに近い感じかもしれません。 日本の繊細な食文化のひとつが、どうやらこの「おろす」という調理のようにも思えてきました。 このような繊細な味の違いにこそ、もっと敏感になりたいものです。果たして、本来のおろすとは。
今回ご紹介するのは、実店舗定番の大矢製作所さんの本目立銅ハイスピードおろしです。 和田商店さんのステンレスものと オクソの樹脂のもので比較してみました。 どれも、おろしやすいのですが、気持ち和田商店さんのものが、一番おろしやすい印象でした。 そして、仕上がりを、写真撮影してみました。下の写真を参照下さい。
仕上がり面と味のおすすめは、大矢さんのものでした。 「甘さ」がより感じられ、ふんわりとした食感。 見た目も「淡雪」という表現に近い美しいものでした。 これを本来は「大根おろし」と呼ぶのかなあと思いました。
和田さんのものは、比較的に粕が残る感じでした。 気にならない方は、全然気にならないレベルだと思いますが。 オクソもやや粕が入り、水切りがない分やや水っぽい感じがします。 同じ大根なのですが、色合いも大矢さんのものが白かったです。 オクソのものはやや緑っぽさがありました。大根の部分もあったかもしれませんが。
大矢製作所 本目立銅ハイスピードおろしでおろしたもの
オクソ大根おろしでおろしたもの
和田商店プロおろしでおろしたもの
そこで、大矢さんの魅力を考えてみました。 樹脂製のものは、素材が柔らかく、鋭さがない。 鋭い方が、繊維を壊さず、おいしくおろせるようです。ただ、扱いには注意が必要です。
加えて、大矢さんの銅は、厚手の銅を叩き締めて、目立てていますので 刃がより鋭利になります。刃物もやはり、地金を叩き締めて鍛える方が良いようです。 その点では、重くなりますが。しかし、受け皿付きなので、 おろす時には、重さは関係ありません。
そして、タガネを使って、一つ一つ手作業で目立てています。 また、刃がなくなったら、目立て直しをしているのが、大矢さんの最大の特徴です。 使い捨ての時代、このようなメーカーが少なくなりました。 目立て直しは、大矢さんで直接受付しています。(片道送料負担で、修理費は本日現在¥4987です。)
やや高額にはなりますが、商品に対する愛着は増すでしょうし、地球環境にも優しいです。 業務使いで1回に10年もつと言われていますので、家庭用なら、もっと長く使用できるでしょう。 なお、こちらの受皿タイプは、目立て直しは1回のみ可能です。
さらに、羽子板のような形をしたおろし金とは違い、受皿が付いていますので、力が入りやすく、おろしやすいです。 また、こちらも水切りが付いていますので、適度に水切りをしてくれて、しっとりと仕上げます。 そして、同じ銅でも、機械で目立てている銅おろし金も使ってみました。 こちらは、目が均一なので、同じ方向に動かしていると、 溝ができてしまい、ある時点で、回すなど違った方向に動かす必要がでてきます。
その点、大矢さんのは不揃いですが、同じ方向で最後までおろすことができます。 それが、美しく仕上がる要素なのかもしれません。 ステンレスのおろし金も、やはり機械での均一な目立てでもあり、もちろん、目立て直しはできません。 大矢さんのものは、ランダムであっても、目の深さや間隔なども含め、すべて計算されているようです。 そこに、大根おろしの美学を感じました。それこそが、職人魂なのでしょう。
また、こちらの商品を使う時には、ちょっとした道具ですが、左の竹製スクレパーが重宝です。 目と目の間のものや、おろし金に残ったものをよせる時に、手を傷つけません。 また、受皿に落ちたものをよせるにも有効です。 他の目の細かいおろし金などで、生姜やワサビなどの薬味をよせるにもお役立ていただけます。 さて、右の写真は、よ〜く見ると、一つ一つ目が違うのです。 「プロが選んだ調理道具」(平凡社 笠井一子著)で大矢さんのことが紹介されていました。 「とにかくきれいで見栄えがよく一律同じものでなければデパートなんぞへ卸せない。 とかく、素人は『本質とは無関係なところでこだわっちゃうんでね。』」と大矢談が記載されていました。
Kan竹製おろし金スクレーパー