歴史をひもとくと、日本人にとってお料理することとは、ご飯を炊くことであったと分かります。 弥生時代の太古の昔から、営々とご飯を炊くことが継承されて今日に至っています。 まず、ご飯を炊くことについて考えてみます。
お米を収穫しても、米粒のままでは食べることができません。 そこで、あの硬い米粒を、柔らかいご飯にする。 それがお料理することであり、炊くことであり、人間の生きる営みそのものとも言えるでしょう。 人間は、食べやすくするために、食べ心地を作って来たのです。 すなわち、人間は自分の頭で考えて、五感を駆使して、試行錯誤を繰り返しながら、美味しさに至ります。 その時、なぜ創造者は、米粒をそのままで食べれられるようにしなかったのか? それは、人間を人間とするための絶妙な配慮があったように思えて参ります。 そのままでは食べることができないからこそ、人間は考えるようになった。 「お料理することは、考えること」とも言えます。 そこで、哲学者は語ります。「人間は考える葦である。」 また、「われ考えるゆえに、われあり。」 考えることにより、人間は自らの存在やアイデンティティを確かめて来たとも言えるでしょう。 すなわち、料理を通じて人間は考えはじめるのです。 食べることは、考えるための大きなモチベーションとなります。 やがて、この考えることを通じて、そこに文明が生まれて、文化が継承されて来ました。 その時、人間は人間に、自分は自分になって行けるのだと思います。
ところが、文明が進んで行くと、文明の利器に依存し過ぎてしまうのか、 しだいに横着となり、考えることをしなくなってしまうようです。 例えば、文明の進んだはずの今日は、電気炊飯器なるものの登場により、 自分でご飯を炊かずに機械任せになってしまった。 「スイッチ一つで」とは、もはや自分では考えません。 その結果、自分の味はなく、わが家の味はなく、味は画一化されるに至ります。 わが家の味がなくなれば、人間そのものの味も乏しくなり、没個性と成り果てます。 自分が自分でなくなる。自分が何であるのかが分からなくなる。 もっと大きなレベルでは、国家の崩壊にもつながります。 もはや自分で考えない。自分で決断しない。その時、栄華を極めた大国であっても滅んで行くのです。 歴史家のトインビーは右のような言葉を残しています。 「いかなる巨大な国家、優れたとされる民族もやがては衰微し崩壊滅亡もする。 その最大の要因は、自分で自分のことが決められなくなってしまうことだ。」 今日のわが国にも、他人任せの風潮が蔓延しています。 それは、突き詰めて行けば、お料理することを軽視したことが一つの原因のように思われます。 便利なものに依存し過ぎてしまい、自分でお料理を全くしなくなってしまう。 加えて、お料理をしてもらうことへの感謝が乏しくなってしまう。 このようにお料理に対する態度が他人任せであれば、生きることに対する態度にも、 それが反映されているように思えるのです。
そこで、まず自分でご飯を炊くことをおすすめしたいのです。 すなわち、お鍋でご飯を炊くことです。 それを身に付けてしまえば、そこからお料理が広がって参ります。 そこにお料理の基本があるからです。 さらに、東海地震や東南海・南海地震を目前に控えて、 これを身に付けておくことは、防災・減災への確かな備えとなります。 さて、日本語の「炊く」と言う言葉を、まず考えてみたいと思います。 その漢字の作りは、火が欠けると書きます。 私には、それは火を調整する、火加減をすることと読めます。 加えたり減らしたりですが、欠けるとなれば、足りない状況で加えることかもしれません。 この火加減を通じて、人は考えることを始めるのです。 お料理は、いかに火加減をするかとも言えます。 お米を炊くことも、いかに火加減をするかとも言えます。 どの程度の火力が良いのか。科学的には、温度という指標を用いると良いでしょう。 しかも、どの程度の時間その火にかけるのか。時間という指標も重要です。 温度と時間がポイントとなります。 そこで、まずおすすめしたい道具が、 タイマーです。 そして、温度に関しては、沸騰すれば上限が100度で調整ができますので、 家庭用のガス火の火力の基準をお知らせします。 中火とは、ガスの炎の先端が鍋底に触れる程度の火です。 そして、弱火とは、中火の炎の高さの半分程度の火です。 強火は、全開状態ではなく、炎が鍋底が漏れない程度の火です。 とろ火は、炎が消えるか消えないか程度の火です。
今回はクリステル両手鍋深型18cmで3合を炊飯しました。
このシリーズでおすすめするクリステル・グラフィット深鍋は、 16cm、18cm、20pの3セットとバスケット20pがスマートに収納できます。
まずは、ざっと洗米します。そして、冬場は1時間、夏場は30分ほど水に浸けておきます。 火にかける時の水加減ですが、鍋に入ったお米の上に手の平を載せて、 手の甲の高さまでの水位となります。沸騰するまでは、中火〜強火にかけます。 グツグツと煮立ってきたら、火を弱火又はとろ火にして10分弱したら(3〜4合程度の場合)火を止めます。 15分程度蒸らします。その後、蓋を開けて、全体をヘラでかき混ぜたら出来上がりです。 上記は、あくまで目安としていただき、その仕組みを理解しながら挑んでみて下さい。 お米の主成分は澱粉(でんぷん)です。 この澱粉を加熱して、澱粉を糊(のり)状に柔らかくすることが目標です。 これを科学的には澱粉のアルファ化と表現しますが、具体的には、 「98度の温度を保って、20〜30分間加熱させること」が原則です。 時間は炊く量によって変動します。 その結果、お鍋に保温力がないと、この98度を保つことができません。 そのためには、蓄熱性のある厚手の鍋が有効になります。 そこで、道具選びも重要な要素となります。 ここで、当社の長年の経験から、メーカーの体制はじめ、お客様の評判などを総合しますと、 今回のシリーズに向けておすすめしたいのが、 クリステル・グラフィット深鍋です。 男性使いには相応しいお鍋として、今回のシリーズでは、このお鍋を使うことを前提で綴って参ります。 そして、洗米する道具は、 オールラウンドボウルズフルセットを利用します。 こちらは、ボールとザルを組み合わせて使えますので、しっかりと水を切ることができます。 しかも、目が細かいので水切れがよく、米が抜け落ちにくいです。
お米3合をチェリーテラスザルLLにボウルLLを重ねて洗米。 ザルを上げれば、サッと綺麗に水を切ることができます。
オールラウンドボウルズフルセットは、3組のザル・ボウルのセットとガラスボウル等が付いて スマートに収納できます。
お料理するにあたり、お鍋でご飯を炊くことの意義を確認いただくとともに、 良質な道具を選んでいただくことが肝要です。 お料理に使う道具は、基本的には毎日しかも生涯使うものです。 形は同じように見えても、少しの違いは大きな違いとなります。 初心者であれば、まずは、良質な道具を使う事からはじめていただくと、 それが基準となり、今後の道具を見る眼も自然と養われてくると思います。 今日の安価なものが溢れている状況であれば、お料理を始めても、 道具でつまずいてしまうこともありえます。 もちろん、おすすめの道具を提案して参りますが、 あくまでご自分で慎重に吟味いただき、ご自分の道具をしっかり選ばれて下さい。 道具選びこそ、「自分で考える、自分で決断する」お料理の初めの一歩です。
男の料理事始 まえがき
男の料理事始 第1回ご飯を炊く
男の料理事始 第2回味噌汁を作る
男の料理事始 第3回目玉焼きを焼く
男の料理事始 第4回ホットケーキを焼く