家庭料理を大切にする人になってもらいたい。 そんな願いをこめて、娘への手紙のような形で、小学校5年生の娘が理解できる言葉で綴ってみました。 これからお料理を始める方をはじめ、日本全国の子供たちに、この鍋炊飯の魅力を伝えて行きたい。
お料理の初めの一歩は、ご飯を炊くだと思う。 ご飯さえ、きっちり炊ければ、それだけでも十分ごちそうであり、 そこからお料理は自然に広がって行く。その時、自分の五感と頭を使う。 それを繰り返すことで、自分の味、自分らしさが生まれてくるよ。
電気炊飯器で炊くこともできるが、お鍋で炊飯することにこだわってみたい。 炊飯は、とても奥の深いもので、いろんな事を教えてくれる。 じっと観察しているいだけでも、その変化に驚きがあり、感動があり、実に面白い。 ところが、電気炊飯器だと、一足飛びになって、大切なたくさんのことが置き去りにされてしまう。
鍋で炊いたご飯は、何といっても愛情もこもるし、失敗がなければ断然おいしい。 実は、おいしさは、お米が教えてくる。そのお米の声にじっと耳をすますのが、鍋炊飯なのだ。 多少手間隙かかるが、出来上がるまでの時間も早い。 何よりも、自分で作ったという実感をもてる。めざすは、我が家の味、我が家のご飯。
そこで、しばし家庭料理について考えてみよう。 家庭料理とは、その家庭独自の味を作ること。それを子や孫に継承していく。 ところが、電気炊飯器だと、味は一律。失敗がないけれど、個性もない。 これは、ご飯だけではなく、すべてのお料理に通じる。
大量生産で作られた味は、インスタント食品や加工食品のように、便利だけど、いつでもどこでも同じ味。 人間だって同じかもしれない。同じ人間ばかりなら薄気味悪い。 やはり、きちんと味のある人になってもらいたい。 もしかしたら、電気炊飯器の登場で、我が家の味が、この時代にプチッと途切れてしまっているのかもしれない。
その延長で、味のある人も少なくなっているかもしれない。 だから、便利なものには注意して、賢く使い分けよう。 あくまで家庭料理はオンリーワン。世界でたった一つの味。 これが出発点。それを自覚するためにも、まず鍋炊飯にこだわってみよう。 そこには、家庭料理の醍醐味が待っている。
さあ、調理に取りかかろう。まず、ポイントは洗米。 白米に残っているヌカを取り除く作業。 お米が最初に水を吸い込むのは、最初の洗米時。 そのため、最初の洗米は、手早く洗い流すこと。
長時間漬けないこと。洗われたヌカを吸い込んで、ヌカ臭くなると言われている。 ヌカ臭さってわかるかな。洗米の時に、白く濁った水を嗅いで見るとよい。 だから、蛇口からトボトボ水を入れるのではなく、お鍋などに溜め込んだ水でいっきに洗うこと。
そのためには、新潟燕の水切りボウル3wayを使うと良い。 水を注いで、ざっと洗ったら、さっと水を切る。 お米を研ぐという表現も面白いね。 包丁を研ぐと言うのはよく聞く。この表現が絶妙だ。お米同士をすりあわせて、表面を適度に削る。 そうすると、さらに吸水しやすくなる。 ただ、お米が割れないように、あまり力を入れすぎてはいけない。 「強すぎず、弱すぎず」そこで、手のひらの付け根のところで満遍なく、適度な力で押さえると良いよ。
包丁を研ぐときも、神経を集中する。 その要領で、「おいしくな〜れ」と、優しく心を込めること。 これを2、3回繰り返す。あくまで、研ぐことを念頭に。 その後、30〜60分ほど、浸水させておく。 この浸水も大切。すぐ火にかけると、お米に水分が入っていないので、芯があるというか、全体がふっくらと炊けない。 夏場は30分、冬場は60分と季節によっても調整は必要。
補足すると、最近では昔と違って、よく精米されているので、あえて研がずに、洗米だけする人も多い。 「無洗米」の登場もその延長にあるみたい。
ここで、お米の量り方について。これは、計量カップを使おう。 すなわち重量ではなく体積なのだ。1合=180cc 1カップ=200ccの二つの単位がある。 本来、お米は固体なので、重量の方がわかりやすいように思う。
しかし、後に入れる水との絡みか、液体と同じ体積で計るのが習慣となっている。 (それでも、お米屋さんで買うときにはkgなどの重量単位が使われるので混乱しやすいね。) ここでは「合」の単位を使おう。1合は、だいたい大目の1人分(お茶碗で2杯分)。
我が家では、だいたい1食あたり2合で良いよね。すりきり1合クッキングカップは、 すりきれで180ccの1合だ。 通常は200ccのカップが多いので、このような道具を使うと、正確に測れて便利だよ。このカップで2杯分。 そこで、炊く時の水量も大切。浸水後、一旦ザルにあげよう。 炊く時の水量を正確につかんでもらうためにね。
やはり、お料理は科学。おいしさは科学。 それは、しっかり測って、目分量でしない。 大先輩たちの知恵で、おいしくなる基本のさじ加減なるものは決まっているのだ。 その基本をマスターしたら、後は自分で調整すれば良いよ。
やはり計ることは、習慣にしたいね。水量はお米の約1.1倍が基本。 お米1合なら水は約200cc(180×1.1=198cc)で、2合なら約400cc(360×1.1=396cc)となる。 この水加減もお米の状態にもよるので、あくまで目安として覚えておこう。
それでは、火にかけよう。ポイントは、その前に、お鍋をしっかりと選ぶこと。 まず、板厚が厚手であること。そして、素材は軽くて熱伝導の良いアルミ鋳物が、ご飯との相性が良い。 そして、蓋がやや内側に落ち込んで吹きこぼれにくいものが良い。
今回は、これらの条件を満たし、当社でも美味しく仕上がると評判の良い HAL片手無水鍋を使ってみる。 電気炊飯器よりも早く仕上がるし、火加減と時間さえつかめれば、確実においしく炊ける。
炊飯の方法には、昔からの言い伝えで「はじめチョロチョロ、中パッパ。ぶつぶつ言うころ火を止めて、ひと握りのわらを燃やし、赤子泣くとも蓋とるな」と絶妙な言葉がある。今回は、それに従って炊いて行く。この言葉、地域によっても若干違うようだが。
鍋やコンロも違ったその昔は「はじめチョロチョロ、中パッパ」の表現だけは、気をつけよう。 個人的には「よく浸水させて、強火にかける」と解釈する。 「はじめチョロチョロ」はよく浸水させると理解し、火にかけるのは「中パッパ」から始める。 まずは、強火でいっきに沸騰させる。厚手のお鍋を使っているから、強火でもお米をほどよく温めていく感じになる。 この点でも、薄手のお鍋は使用しないように。
次に、「ぶつぶつ言うころ火を引いて」とあるように、ブツブツと煮立ってきたら、とろ火にする。 このブツブツの瞬間は、炊飯ならではのもの。昔の台所の原風景のようで、いやに懐かしい〜。 蓋が重いので、内部で程よく圧力がかかる。しかも、吹きこぼれも抑えている。 とろ火にするタイミングを間違うと、いわゆる吹きこぼれを体験してしまう。しかし、吹きこぼさないように気をつけよう。
目安はとろ火で約7分。タイマーを使ってみよう。ピピピ〜で火を止める。 補足すると、火を止める直前に一旦強火にして、内部の余分な水を追い出す、「追い炊き」をすることもあるよ。 これが「ひと握りのわらを燃やし」と言われる部分。そして、火を止めても、これで出来上がりではない。
蒸らす。そのまま15分間、蓋をとらずに、お鍋をそのまま置いておく。 「赤子泣くとも蓋とるな」で、お腹すかした赤ちゃんが泣いても、じっと我慢しよう。 赤ちゃんはご飯ではなく、母乳を待っているかもしれないが。 何があっても、蓋をとらない。それほど大切な時間。 この時間が短いと、芯が残り、長すぎるとべた付いた感じになる。 この蒸らし15分もタイマーを使おう。 改めて、測ることは、重要だよ。体内時計に頼らないように。
さあ、時間が来たら、蓋を開けま〜す。わ〜おいしそう。その瞬間に湯気とともに、かぐわしい香り。 うまく行けば、白く美しい表情に、感動の瞬間が訪れる。 その時、見とれていないで、すぐにほぐすこと。 しゃもじを底に入れて返し、空気をお米全体にいれる感じ。つぶさないように、優しく優しくね。 余分な水分も飛んで行く。けど、我が家ではそのまま、曲げわっぱのおひつに移しかえるので、その作業は省略。
移しかえることにより、全体が満遍なく空気に触れる。 おひつが適度に水分を調整してくれる。そして、おひつ本体と蓋の間に、しばらくフキンを挟んで、蒸気を吸い込ませることもあるよ。おひつに少しおいて置くと最高のコンデションに。 天然の秋田杉の中におさまると、お米も我が家に帰ったように安心している様子。やはり、ご飯にはおひつだね。 さあ、しゃもじでお茶碗に美しく盛ってみよう。 その一粒一粒に躍動感がある。艶があって輝き、もっちりと立っている。 口の前でほのかに香り、口に入れるとほのかに甘い。
お米の状態も日々違う。 この炊飯作業の繰り返しの中で、水加減、火加減や時間、蒸らし時間なども含めて経験的に、 おいしく炊くコツをつかんで行くことだ。 それが、お米の声に耳をすますこと。 いや、目も使う。鼻も使う。舌も使う。手も使う。すなわち五感をフルに使うのが家庭料理なのだ。
そして、いつも違う、今日も新しいご飯に会える。 そんなワクワクした心持ちでご飯を炊くことが大切だと思う。 時には、失敗もある。しかし、おいしくご飯が炊ければ、最高に幸せな気持ちになれる。 日本人で良かった。人間でよかった。そんな声が魂から飛び出してしまうかもしれない。 ご飯には、そんな力が秘められていると思う。
そして、ご飯がおいしくなれば、自然と他のお料理への意欲も湧いてくるはず。 鍋炊飯は、忘れてしまった多くのことも教えてくれる。さあ、鍋炊飯からはじめよう!