第五回は東京下町で銅鍋を家族で作り続ける「中村銅器製作所」
フライパン倶楽部店長が中村銅器さんの魅力に迫ります!
【 親から子へ受け継がれる銅のたまご焼き 】

中村銅器製作所は大正の創業で、今日は三代目となる中村恵一さんが四代目に引き継ごうとされているタイミングです。
当社とほぼ歴史を同じくしているので、その継承の重みを共に感じています。
当社が四代目の私に代替わりした時に、中村さんに挨拶状を送りました。
その時、丁寧な返信葉書を頂けたことが印象に残っています。
「継承を続けていくご苦労は先代の教えやご努力あってのものだと共感いたします。」
店長宅の使い込んだ「銅製たまご焼き器」は中村銅器さんのアイコン的存在。
読売新聞でも、最近ではNHK番組サラメシでも、中村さん親子のことが取り上げられて話題となりました。
その仕事場が、東京の足立区・下町であることにも、魅かれるものがあります。
中村さんの3人の息子さんが、それぞれの持ち味を生かして、家業を継がれています。
そこには、父親への畏敬なるものも感じられますが、親子が肩を並べて鍋と向き合っている姿は、
この時代が忘れてしまった大切なものを教えてくれているようです。
以前、中村銅器さんを訪問した際の一枚。三代目・中村恵一さんの作業風景。
中村さんの技術の要は、錫(すず)引きです。銅の表面に錫が引かれることで、緑青対策になりますが、銅臭さも解消されて、
しかも油の馴染もよくなる。一般的な錫メッキと違って、錫が厚くなるので、錫の耐久性がよくなります。
鉛などの入らない高価な純錫のプレートを溶かして、鍋表面に焼きながら均一に引いていきます。
むらなく引くことは熟練の技が必要です。
中村さんも二代目から、率先して失敗を繰り返しながら、この錫引きを継承してきました。
そして、息子さんは「父は口べたで理屈では教えてくれない。見て覚えるしかないです。」
中村さんは、背中で教えるタイプのようですが、そこには理がありました。
口で教えてもらうことは、すぐ忘れてしまうが、自分で間違えて覚えることは、自分の頭で考えるから自分のものとなる。
この春、中村さんは肩をこわして、作業が出来なくなりました。
ところが、このタイミングで息子さんが錫引きを身に着けてしまった。
この怪我の功名を中村さんは喜んでおられました。(おわり)