料理道具専門店 フライパン倶楽部

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店長のフライパン哲学

2章 フライパンと愛

料理研究家の辰巳芳子さんの料理教室に参加する機会が与えられました。 その辰巳さんが「料理することは、人を信じて、愛することです。」 料理とは自分だけではなく、信じて愛する対象が想定されている。 他者と分かちあうものであり、本来は他者に与えるためのものかもしれません。 辰巳さんは、お母さんの浜子さんからお料理を学びました。 子供のために、お料理をする母親の姿は、お料理の本質を映し出してくれています。 母親の作るお弁当はその象徴でしょう。

また、フライパンの中で調理される食材も、他者のために存在しているようです。 例えば、卵は、本来は鶏になるはずが、食べる人にその命を与えることとなります。 ある意味で、卵は、食べる人のために、わが身を犠牲としている。 豚や牛にしても、血が流されて、その肉を食べる人にわが身を捧げているともいえるでしょう。 その時、人は、自分の存在価値を知り、愛されていることに気づきます。そして、「ごちそうさまでした」と感謝が生まれるのだと思います。

「ふらいぱんじいさん」という絵本がありますが、フライパンが自分探しの旅に出る物語です。 ふらいぱんじいさんは、自分は真っ黒になって、目玉焼きを子供たちに届ける。 それを食べる子供たちの笑顔を見ることが生きがいでした。 そして、自分の役目を終えると、一人旅立つのですが、新しい役目を見つける。それは、鳥の巣となって、心安らかに卵を温める。 もしかしたら、今まで自分の上で犠牲になってきた卵への恩返しの気持ちがあったのかもしれません。

「ふらいぱんじいさん」あかね書房 神沢利子作 堀内誠一絵 

すると、自分が真っ黒になって、他者を生かしているフライパンは、愛の象徴物にも見えて参ります。 懸命に汗をかいて、焼かれ叩かれながら、美味しさを誰かに届けている。 独立自尊とは、自分のためでありましたが、次のステージがあり、それは誰かを愛することが最終目標なのでしょう。 自分を大切にできる人が、人を大切にできる。あるいは、愛された人が、人を愛することができる。 ですから、フライパンは、人を愛することに導いてくれます。