「考えない台所」というタイトルに魅かれましたが、正確には、事前によく考えておけば、 当座は考えなくて、台所仕事が楽しくなるという内容でした。 その点では、準備および段取りの重要性を教えてくれています。 調理だけではなく、献立作り・買い出しからはじまり、片づけ・収納までの一連の作業についても提案してくれています。 今日家庭でお料理作りを楽しむ上では、調理方法のみを解説した本よりも、 こちらのように買い出しから片づけまでを網羅して提案することが大切なのかもしれません。
考えない台所(高木 ゑみ著・サンクチュアリ出版)かわいいイラストが印象的で、タイトルおよび帯のコピーも
分かりやすく、何となく手にしてみたくなる本でした。
まず、「マインド編」を設けておられて、台所仕事にのぞむ心構えを教えてくれます。 料理研究家の辰巳芳子さんの料理教室で、「なぜ、お料理をするのか」を問いかけられたことを思い出しました。 若い著者ですが、そのあたりの哲学もお持ちで、最終的には、「要は、『楽しんでやろう!』という 気持ちが大切なのです。」そして、右のようにまとめていますが、大いに共感いたします。 「料理をつまらなくするのも自分。楽しくするのも自分。すべては自分次第。 どうせやるならゲーム感覚で楽しくこなすのがいちばんです。」
そして、ご自身の経験から生み出された、30近いルールを惜しみなく提示されています。 このルールを習慣化できれば、考えなくても良くなりますと。 ただ、そのルールができるまでには、著者は深く考えた過程があったと思います。 ですから、「考えない台所」というよりは、「考える台所」の方が相応しいかなと思ったぐらいでした。 読者も、そのルールに依存してしまうことなく、自分でそのルールをみつけていくことが重要でしょう。 その点では、そのルールを鵜呑みにするのではなく、手がかりにしてみると良いと思いました。
加えて、この本の出版社である「サンクチュアリ出版」とは初めて聞きましたが、本の中に 出版社の紹介のペラが挿入されていました。 「あなたの運命の1冊が見つかりますように 基本は月に1冊づつ出版」 「サンクチュアリ出版の刊行点数は少ないですが、その分1冊1冊丁寧に、ゆっくり時間をかけて制作しています。」 こちらの出版社の姿勢にも魅力を感じましたが、表紙、挿絵、構成、大変見やすく編集されていました。 丁寧に作られた本であり、その丁寧さこそ、家庭のお料理作りにも通じるものだと思いました。
そして、自分の献立の傾向を知るための葉書サイズの「書き込み式 献立客観シート」なるものが 購入特典として入って参ります。 横軸にメインの食材、縦軸には調理法が入っていて、自分のレパートリーを書き込んで行きます。 毎日の献立は、いつのまにか偏る傾向があるので、そのバランスをとる手がかりになると思いました。 読むだけではなく、書き込むことを提示してくれています。 その意味では、この本は、読者の台所仕事を反省してみる機会ともなるでしょう。
最後の章は、道具編であり、当社とも通じるところです。 調理道具のルールとしては、「シンプルでよく使うものだけを手もとに残すこと。」 この言葉にも、考えない台所とは対照的という印象であり、 よく考えてこそ、あるいは自分で使ってみてこそ、そこに至れるのだとも思いました。 ただ、そんな道具たちは、使う時にはこちらが何も考えなくても、調理を楽しませてくれるのでしょう。 ですから、考えない台所とは、事前にしっかりと自分で考えて、楽しむ台所とも言えるでしょう。