お米を洗米した後に、浸水させますが、それはお米を吸水させるためです。 夏場は30分、冬場は1時間が目安です。 このように吸水させると、加熱した時に、お米の澱粉が糊化(こか)のり状になりやすくなり、米粒が全体として柔らかく仕上がります。 しかし、吸水が少ないと、糊化がうまく行かず、米粒に硬さが残り、いわゆる芯のある仕上がりになりがちです。 なお、時間がない時には、お湯に漬けたり、火にかける時に、最初は弱火で炊くと良いでしょう。 水温が高くなると、お米の吸水が良くなる性質を利用します。 さて、あるお客様から、「洗米後に、そのまま浸水させるのと、ザルにあげておくのでは違いがありますか?」と質問をいただきました。 基本的には、ザルにあげることによって、水を正確に計測できるメリットがあります。 しかし、計測のためだけではなく、しばらくの間そのままザルにあげておくこともあるようです。 それは何のためでしょうか。
これは、家庭でというよりも、一度にご飯を大量に炊くお寿司屋さんをはじめ職人世界で見かける事が多いように思います。 すなわち、お米の量が多い時には、ザルにあげておくことに何か理がありそうです。 量が多い場合には、そのまま浸水させるより、ザルにあげて、米粒と米粒の間にある水で適度に吸水ができてしまう。 また、浸水させると、あくまで量が多い場合ですが、水に触れている上面に位置する米粒と 鍋底にある下面にある米粒の吸水にむらが生じやすいのかもしれません。 仮説ではありますが、ザルにあげておいた方が、むらなく適度に吸水できる。 そして、ザルにあげておくのは、昔のお米が硬かった、すなわち水分が少なかった事にも由来するようです。 こちらの米穀機構さんのページも参照下さい。 ザルにあげて故意に乾燥させると、ひび割れが生じるため、硬いお米の吸水が促進されます。 ところが、最近のお米は、その点で適度な水分が含まれているため、その必要がないとされています。 これらの微妙な水加減で、炊き上がりにも影響してくるので、敢えてそれを楽しむのも料理だとも思います。
また、最近のお米は、精米技術が進歩して、力をいれて洗米する必要がありません。 洗い流す程度で良いと言われています。もはや、研ぐと言う表現は、誤解を招いてしまうのかもしれません。 無洗米なるものも登場している時代です。 このように昔と違って技術の変遷で、食材の扱いも変わっています。 その点を見極めて、食材に向かう必要もあるでしょう。 それと似たことで、食用油の発煙点。煙が出てくる温度です。 従来の食用油は、あまり精製されていなかったので、発煙点が低いため、ちょうど適温の180度前後でした。 そのため、煙で適温を判断できました。 しかし、今日の食用油は、精製されているため、発煙点は高く、200度を越えてしまいます。 そのため、煙が出てからでは、適温を越えてしまっている。適温は、煙の出る直前と言った方が相応しいです。 このように、昔と今で食材にも変化がありますので、昔ながらの方法にこだわらず、 食材の状態をよく観察して、調理していく必要もあるでしょう。 その点では、今回のように「違いはなに?」と疑問をもって、その理を問い詰めていくことこそ、本来のお料理だとも思いました。