左はフッ素樹脂加工の中尾アルミ シルクフライパン、 右はセラミック加工のリバーライト社ナノセラファイン優
こびりつくにくいフライパンとして重宝なノンスティックフライパン。 もともとは、テフロンのフッ素樹脂に始まり、今日ではセラミックのものが販売されています。 その時、フッ素樹脂が良いのか、セラミックが良いのか。 それだけを指標にして比較検討していますと、大局を見失ってしまいがちです。
フッ素樹脂やセラミックというコーティング部分は、あくまでフライパンの一部に過ぎません。 これらは、ミクロン(千分の一ミリ)単位の薄い膜なのです。 その時、コーティング部分の千倍のミリ単位となる、その下地である基板(金属)の方にも、より注目する必要があります。 その下地の基板は何であるのか。アルミとステンレスが代表的です。
そして、その基板の厚みはどの程度なのか。 この基板の素材と厚みによっても、フライパンの性能が分かれるのです。 とりわけ、フライパンの性能で重要なのは、加熱性能でしょう。 ですから、いくらセラミックの熱伝導率がフッ素樹脂よりも良くても、 基板の加熱性能が劣れば、その性能を十分に発揮できないでしょう。
また、フッ素樹脂でも、基板の加熱性能が優れていれば、それなりの加熱性能が確保できるでしょう。 その時に、おすすめできる基板の一つが、 アルミ鋳物(アルミダイキャスト、アルミキャストとも呼ばれます。ダイdieは金型、キャストcastは鋳造するとの意味があります。)です。 上記のナノセラファイン優はアルミ鋳物となります。
アルミ鋳物の特徴は、軽くて、しかも加熱性能に優れている点です。 加熱性能が良いと、調理の理想形である、フライパン全体が均一にむらなく適温に至ります。 加熱性能が悪いと、ガスコンロなら、炎の当たる部分と当たらない部分とでの温度むらが生じやすい。
ここで、この加熱性能を考えてみましょう。 これは、熱伝導性と蓄熱性の2つの指標で構成されていると考えてみて下さい。 優れた加熱性能とは、この2つのバランスがとれているのです。
まず、アルミと言う素材は、熱伝導性が優れています。 そして、もう一つの蓄熱性とは、保温性と言っても良いのですが、 冷めにくい性質でもあります。 これは、素材もさることながら、素材の厚みにより影響されます。 すなわち、厚手になれば、蓄熱性が良くなります。
そこで、アルミ鋳物なのです。 鋳物とは、金属を一旦溶かして、それを型に流し込んでできるもの。 これによって、アルミを厚くした状態で加工することができます。 しかも、溶かして固まる過程で、表面は早く固まり緻密な結晶が、 内部はゆっくり固まるので粗い結晶が形成されます。 結果として、内部の粗い結晶は熱の保有力を高めるため、蓄熱性が良くなります。
ですから、フッ素樹脂かセラミックかの比較の前に、基板がアルミ鋳物であることは、 加熱性能が良好なフライパンだと判断できます。
さて、調理面からフッ素樹脂を考えてみます。 まずは、樹脂なのに、耐熱温度が260度もある、その耐熱性です。 これは、物質的には、極めて優秀な温度とも言えるものかもしれません。 フライパンの適温が180度であることを考えれば、十分な耐熱温度でもあります。 かたや、セラミックは、フッ素樹脂以上の耐熱温度を持っていますが、 そもそも260度以上にしてしまえば、食材が焦げ付いてしまいます。
そして、酸・アルカリにも強い。 その結果、食材からの影響も受けませんし、食材に影響も与えません。 例えば、酸・アルカリに弱いのは、アルミです。 保存しておくと変色などしてしまうこともありますが、 フッ素樹脂が加工されていれば、それをカバーしてくれるとも言えます。 この点は、セラミックも同じく優れています。
しかも、抜群の非粘着性があります。 そのために食材がこびり付きにくく、汚れも落としやすくなる。 これらのメリットは、調理においては、大変有効でしょう。 この点は、セラミックも同じく優れていますが、 フッ素樹脂の方が歴史が長い分、研究が進んでいる印象もございます。
そこで、デメリットを整理しておきましょう。 まずは、最近話題にもなりますが、耐熱温度の260度を越えると、 劣化はもちろんですが、有害な物質に変わってしまう。これは、要注意です。 ですから、この温度に至ってしまう、長時間の空焼き等には十分気を付けていただきます。 詳細は、フッ素樹脂の安全性とはを参照下さい。 その点では、セラミックの方が安心感はあるかもしれません。
そして、フッ素樹脂そのものの熱伝導率は、大変低いのです。 鉄の217分の1と言われますので、断熱材のように作用して、熱を遮断してしまう要素があります。 そこで、野菜炒めなどで感じやすいのですが、手早く適量の熱を届けにくい。 そのため、野菜内部に熱が通る前に、野菜内部から水分が出て来てしまい、シャキッと仕上がりにくい。 かたや、火加減を誤っても、焦げにくいとも言えるでしょう。 その点では、基板が同じ条件で比べた場合は、セラミックの方が熱伝導性には優れていて、 鉄製フライパンに近い仕上がりになります。
そして、フッ素樹脂は、亀の子束子をはじめナイロンたわし等は、お使いになれません。 お手入れ時も、柔らかいスポンジで汚れを落とすことを習慣としていただきます。 万が一、焦げ付かせてしまった時は、お水を張って、一旦煮立てて、焦げ付きをふやかしてから取り除いて下さい。 また、セラミックもフッ素樹脂と同じお手入れとなります。 ただ、フッ素樹脂は幸いに焦げにくいので、正しく使用頂けば、 柔らかいスポンジで大方問題はないと言えるかもしれません。
以上のような特性を抑えた上で、用途にあわせて、相応しいノンスティックフライパンを選んでみて下さい。 そして、適切にお役立て下さい。その時、お料理が美味しくなるばかりか、フライパンが長持ちいたします。