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美味しさの科学

2011年9月13日

加熱講座13 本道の焼き物

フライパンの主用途である焼くことも、加熱の仕組みが理解できれば、さらに美味しくなるでしょう。 加熱に水を媒介させる煮たり、茹でたり、沸かしたりの湿熱(しつねつ)調理では、100度以上に温度は上がりません。 水の沸騰温度が上限温度を設定してくれています。 しかし、焼くことは、水を媒介としないため、100度を越えて、上限温度に際限はありません。 こちらを乾熱(かんねつ)調理と呼びます。 200度を越えれば、食材は黒く焦げて炭となります。もはや、食べる事はできません。 食材が台無しになってしまいます。 そこで、焼くことも、まず温度を指標にして取組んでみると良いでしょう。 試行錯誤を繰り返しながら、美味しく焼くことを目指してみて下さい。 その意味では、やりがいのある深みのある調理とも言えます。 ここで、勘違いしてはならないのは、いくら良い道具があっても、焼き方が間違っていれば美味しく調理はできないのです。

さて、焼き方のポイントとは、適切な温度です。 それは、食材や大きさによって多少の幅はありますが、180度の温度となります。 この温度で焼くと、美味しい香りが生まれます。 この詳細に関しては、こちらのページを参照下さい。 糖分の香り、脂肪の香り、そして、糖分とタンパク質からの香りが生まれます。 どれも同じ180度の時に生まれてくるのです。 そして、香りに加えて、美味しそうな色目がつきます。 茶褐色あるいはキツネ色と表現されることが多いです。 その外観がさらに食欲をそそります。 また、焼くことによって水分が少なくなり、味の成分が濃くなります。 このように、焼くことは、ある意味では、良いお焦げをつくるとも表現できます。 この良いお焦げを作るためには、フライパン調理であれば、 適温の180度に予熱して、この温度を持続させて適切な時間焼くことなのです。 その時のコツに関しては、こちらのページなどを参考にして下さい。

そして、焼く時に注意することは、食材から出てくる煙です。 これは、食材の風味を損ない、食材をまずくしてしまいます。 それは、魚や肉がもつ脂肪は、250度以上の高温になると、 分解や重合など複雑な化学反応が起こって不快な臭いを伴う煙が生じます。 青味のあるサンマやサバなどは、脂肪が多く含まれていますので、特に気を付ける必要があります。 また、脂肪だけではなく、タンパク質を含んだ肉や魚の汁は高温で焦げると、同じように嫌な臭いを伴う煙が生じます。 これらの煙が食材に触れないように、いかに逃がすかがポイントとなります。 焼き鳥や鰻の蒲焼などを店頭で焼いている時に、うちわで扇いでいるのも、その煙を逃しているのです。 そのため、ガスコンロに付属されているグリルやオーブンレンジには、問題があります。 それは、その煙を食材とともに閉じ込めてしまう。 本来は、開放空間で焼いて、煙を逃すことが原則なのです。 また、閉じられた空間で焼くと、カラッとは焼けず、表面にやや水分を含んだ仕上がりとなります。


ジンギスカン鍋は、大変理にかなったお鍋です。

フライパンでも、蒸し焼きを除けば、基本的には蓋を使わずに焼くことが原則です。 そこで、この煙対策をしている道具をご紹介します。 ジンギスカン鍋をご存知でしょうか。 鉄板が山なりになって、周りに脂が流れ落ちる構造になっています。 鉄板には溝があり、脂が溝を通じて、山の外側に落ちるようになっています。 何もジンギスカンの羊の肉だけではなく、他のお肉を焼く時にも相応しいかもしれません。 非常に理にかなった道具だと思います。 その周囲には、野菜等をぐるりと置きますが、ちょうど肉から出て来た脂が これらの野菜に絡んで美味しく焼くことができるのです。 なお、熱穴があるものもありますが、熱穴があれば、さらに火の通りが良くなりますが、 脂が熱源に落ちることがあり煙は出やすくなるでしょう。 そして、昔ながらの囲炉裏で、魚を焼くことをイメージして下さい。 炉の外側に串ざしの魚をぐるりと斜めに差し込んで焼きます。 こうすることによって、魚は炉からの熱を受けつつ、出てくる脂が炉の外側の灰に落ちるようになります。 これらも、脂が熱源に触れず、煙が出ないようにと工夫しているのです。

ここで、理想的な焼き方を、温度を視点に整理してみます。 まず、食材の表面をこんがりとキツネ色に焼き固めます。 そして、食材内部全体には、80度弱の熱が入るようにします。 表面と内部に分けて考えます。 表面はこんがりと、内部はふっくらジューシーな仕上がりが理想形です。 内部は、表面からの伝導熱で加熱されますが、表面と同じように180度になってしまえば、中まで硬くなってしまいます。 せんべいみたいな仕上がりになってしまうでしょう。 多くの場合は、内部は80度前後で、ある程度水分が残り、やわらかい状態の方が美味しいのです。 80度以上になると、硬くなる傾向にあります。 かといって、70度以下ですと、生焼け状態であり、食材によっては細菌なども残ってしまいます。 大量調理衛生管理マニュアルでは、「75度を1分以上保つこと」が取り決められています。 その結果、裏返して焼くことも想定しながら、内部全体に80度弱の温度が入ることが目標です。 そのため、内部に均一に熱が入ることを心がけ、火加減調整と火にかける時間を見極めます。

さらに、食材によっては、薄くて内部にすぐに火の通るものと、厚くて火が通りにくいものがあります。 同じ時間で仕上げるためには、下処理の段階で、なるべく均等な厚みにすることも考慮に入れます。 加熱は、時間とその強さで調整します。 その時に、火にかける時間が長かったり、適温を越えて高温状態になってしまうと、 内部に熱が入る前に表面が焦げてしまいます。 そこで、弱火でじっくりと熱を入れていくことが原則となります。 焼く調理の食材は、卵をはじめ魚や肉などタンパク質を主成分とするものが多いです。 そのタンパク質は、ゆっくりと熱を入れると、ふっくらと柔らかく仕上がります。 電子レンジのように急激に熱が入ると、タンパク質は硬くなってしまうのです。 加えて、表面は早く固まった方が良いのです。 それは、内部の旨みの成分である汁が外に逃げてしまわないためです。 そこで、塩を食材に振りかけます。 それは、より低温で表面が固まるようになり、その結果早く固まり、内部の旨みを閉じ込めるのです。 食材に塩をよく振って、おだやかに加熱して行くことが秘訣と言えます。

ここで、道具もポイントとなります。 厚手のフライパンであれば、熱をしっかり溜めこんでいるので、食材を載せても、弱火でしっかりと熱が入ります。 しかも、温度むらがなく食材に均等に熱が入ります。 かたや、薄いフライパンですと、熱を溜めこめず、熱量が不足しがちで、ついつい強火を使ってしまいやすい。 しかも、炎の当たる部分など、ある部分のみが極端に高温になってしまい、焦げ付きを招きやすい。 また、炭火を使った直火であれば、少し離れた遠火にした状態で、放射熱により食材全体に均等に熱が入ります。 炭火は、厚手のフライパンのような要素があるとも言えます。 そこで、直火とフライパンの違いですが、タンパク質は加熱すると、金属と結合する性質があります。 そのため、フライパンに油を塗布するのは原則です。 油が媒介物となって、この結合を解消してくれます。 それでも、魚の皮など繊細なものは、くっ付いてしまうことがある。 その点で、直火であれば、皮が剥がれることなく綺麗に焼けます。

また、フライパンでは、食材から出て来た脂が食材に浸って、フライのような揚げ物に近い仕上がりになってしまうこともあります。 それが良い場合もありますが、それを解消するためには、網や溝付きのフライパンなどを利用することもあります。 しかし、日本の焼き魚の本道は、フライパンではなく直火で焼くことであり、または、こちらのページでご紹介する魚焼き器で焼くことかもしれません。 このように、道具を使いこなせれば、美味しさが待っています。