料理道具専門店 フライパン倶楽部

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精読「食道楽」春の巻

第二十一 大間違

いかにも驚きたる妻君は暫(しばら)く大原の顔を見つめておかしさよりも訝(いぶか)しさに堪えず 「大原さん、この半襟は貴君(あなた)が小間物屋(こまものや)へ往(い)ってお買いのですか」 大原さてこそと大得意「イヤ、人に頼んで買ってもらったのですが渋いでしょう、この頃の新流行でしょう、随分珍らしいでしょう」 妻君「オホホ珍らしいにも何にもお若い娘さんにこんな半襟を持って来て下さるとは古今無類の珍談です。 どんな人に頼んで買っておもらいだか知りませんがきっとお欺(だま)されなさったのですね。 貴君、これは六十位なお婆さんがかける半襟です。何処(どこ)の国へ往ってもお若い娘さんがこんな半襟をかけられるものですか。 どう間違えてこんなものを買ったのでしょう、とてもお登和さんのお用いにはなりませんよ」

と説明されて大原は俄(にわか)に青くなり「それはどうもとんでもない事です。僕はお若い娘さんに進(あ)げるからといって 頼みましたけれども何で間違えましたろう。あんまり気を利かせてお年をとるまでかけられるようにと末を考えた訳でありますまいか」 妻君「マサカ半襟一つを六十までかけられましょうか。折角のお土産ですけれどもこれは一旦お引込(ひっこ)ませになって 外(ほか)の良いのとお取(とり)かえなすったらいいでしょう」と忠告されて大原は面目なく 「そう致しましょう。今度は貴女(あなた)に見立て戴いて上等のを買いましょう。お登和さん御勘免(おかんべん)なさって下さい、 とんだ物を持って来て相済(あいす)みません」と今更詫(わ)びても追付(おっつ)かず。

お登和は半襟を貰いたくもなし、この品を引かえられて再び上等の物を貰いなばかえって迷惑と 「イイエこれで沢山(たくさん)です。貴君(あなた)のお志を戴くのですから半襟はこれで結構です。 私がかけませんでも外に用(もちい)る処が沢山あります。折角のお思召(ぼしめし)ですからこれを戴(いただ)きましょう」 と婆さん向の半襟を我手元へ引寄ぬ。大原は今の一言が何より有難(ありがた)し 「僕の志を受けて下さるとは忝(かたじけな)い。僕は半襟を差上げるのが目的でありません、 僕の志を知って戴きたいのです」と漸く元気我に還りぬ。

妻君耐えかねて遂に吹出し「とかくお話がトンチンカンでよっぽど妙ですね。大原さん、私は今お登和さんに教えて戴いて お芋料理を致しましたから一つ差上ましょうか。お茶菓子にもちょうどいい者がありますよ」 大原「お登和さんのお料理とあれば何でも頂戴します。お芋はなおさら結構」とここにも志を見せるつもり。 妻君は下女に命じて品々を持出さしめ「大原さん、それが茶巾絞(ちゃきんしぼ)りといってお芋のお菓子です。 どんな上等のお客にでも出せるそうです。上品な味でしょう。これはお芋の羊羹です。 碾茶(ひきちゃ)を少し加えましたから殊(こと)にお美味(いし)いでしょう。 まだ外にも色々ありますけれども昼餐(ごはん)のお副食物(かずもの)に差上げましょう。 大原さんは別に御用もありますまいから御緩(ごゆる)りとお遊びなさい。 私が今お登和さんに教わって美味(おいし)いお料理を御馳走しますから」

大原いよいよ恐悦(きょうえつ)「どうぞ願いたい、御辞退は致しません」 妻君「オホホ貴君が御馳走を見て御辞退なすった事は一度もありますまい。 その代り原料は廉(やす)い品物ばかり、廉い物を美味しくするのがお登和さんのお料理法です。 お登和さん、御迷惑でもおついでにモー二ツ三ツ教えて下さいませんか、章魚(たこ)を煮たいと思いますが どうしたら柔やわらかになりましょう」と再び頼む料理の伝授。お登和は帰るにも帰られず。

コメント:
「きっとお欺(だま)されなさったのですね。」 時代は変われど、ユーモアを楽しむ人間性は変わりません。 「あんまり気を利かせてお年をとるまでかけられるようにと末を考えた」との大原の返しも、 お人好しな面が垣間見えて面白みがあります。思いも寄らない事態に至って、どのように対処するかで、 その人自身が見えてくるようです。お登和も、そこに至って、半襟をもらうことを選択しますが、 これがかえって誤解の種となりそうです。このあたりに、処世の難しさがありますが、経験を積むことで心得ていくのでしょう。 そして、この場をお料理で収めるのは、年長者の知恵でもあるかもしれません。 お料理には、場をとりなす要素があるように思います。それでもお登和からしたら、迷惑だったかもしれません。