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精読「食道楽」春の巻

第八 料理自慢

牛歩豚行(とんこう)の大原満は心に未来の想像を描きて嬉し顔に中川家の格子戸を開(あ)けたり。 まだ案内も乞わぬ先(さき)から主人中川襖(ふすま)を開き 「大原君、待っていたぜ。今日は君がきっと来るだろうと思って待っていたところだ。 もしや来なかったら呼びに上(あ)げたいと思った位だ。 マア上り給たまえ」とその様子の元気好(よ)さ、大原は心に期する事ありて一入(ひとしお)嬉しく、 やおらと上に登(あが)りて座敷へ通り「中川君、先(ま)ずおめでとう。 時に今日はどういう訳でそんなに僕を待っていた」

主人「その仔細(しさい)はね、今度僕の妹が国から出て来た。これが妹だよ」と談話半(はなしなか)ばに先ず妹を紹介する。 紹介されぬ先よりその人の顔を孔(あな)の明(あ)くほど眺めておれる大原は平生(へいぜい)の書生風に引かえて俄(にわか)に 容(かたち)を正し慇懃丁重(いんぎんていちょう)に両手を突いて初対面の口儀(こうぎ)を述べ 「ありがたい訳だね、君の御令妹(ごれいまい)が御上京について僕を待っていたとは実にありがたい。 即ち天意ここにありかな」主人「ナニ」

大原「イイエさ僕も早く来ましょうと思ったけれども小山君の処(ところ)へ寄って遅くなった」 主人「そうだろうと思ったよ。僕の妹は料理自慢だ。長崎辺の風(ふう)で女の子に料理法を充分に仕込むが 妹は国の料理を習った外(ほか)に神戸や大阪で和洋の料理も少しずつ研究した。 今日は幸い長崎の豚料理を拵(こしら)えたから誰かに御馳走したい、 折角(せっかく)御馳走するなら張合のある人に差上げたいというのだが物を御馳走して張合のあるのは君の外にないからそこで君を待っていた」

大原「オヤオヤ少し当(あて)が違った。ナニさ少し都合が悪いよ。僕は今小山君の処で南京豆のお汁粉というものを腹一杯食べて来た」 主人「あれを遣(や)ったかえ。僕も毎度御馳走になるが少し食べておくと非常に美味(うま)いけれどもなにしろ脂肪だから 食べ過ぎると胸に持つね。あの妻君が君の食べるのを面白がって無闇(むやみ)に薦(すす)めたろう」 大原「薦めた事も薦めたが僕も美味いから随分食べたよ。大きな丼鉢で三杯平らげた。跡(あと)で気が重くなって立つ事も出来ない、 ここへ来るのも漸く歩いた位だ」主人「ヤレヤレそれは生憎(あいにく)だったね。 折角君に御馳走しようと思って楽しんでいたに、妹もさぞ本意(ほい)なく思うだろう」 大原「ところがね、外の人の御馳走ではモー一口も食べられんが御令妹のお手料理と聞いては腹が裂けるまでもこのままに引下がれん」

主人「では食たべるかね、相変らず豪(えら)い勢いだ。僕もまだ飯前だから一緒に遣ろう。 お登和や、早速ここへお膳を出したらよかろう」妹「ハイ」といって勝手へ往(ゆ)き下女と共に大きな食卓を運び来る。 食卓の上には見馴(みな)れぬ料理皿に堆(うずたか)し。大原先ず鼻を蠢(うごめ)かし 「ドウも好(よ)い匂(におい)だ、何ともいえん美味(うま)そうな匂だ。 僕は今まで折々豚を食べたけれどもあんまり美味いと思った事がない。 豚は不味(まず)いものと心得ていたが料理法次第でそんなに美味くなるかね」 主人「美味くなるとも、牛肉の上等よりもなお美味い」 大原「マサカ」

主人「イイエ実際だよ」と熱心に弁論を始めんとする時妹のお登和小声に 「兄さん御酒(ごしゅ)をつけますか」兄「そうさ少しつけておくれ」と御馳走には必ず酒の伴うあり。悪い癖。

コメント:
大原と中川の妹が対面します。大原を待っていたとの言葉に、大原は心に期するところあり 「僕を待っていたとは実にありがたい。即ち天意ここにありかな」 思い描いた通りの未来が来たと都合よくとらえますが、そこは大きな勘違い。 このあたりは、「男はつらいよ」の寅さんを彷彿させます。中川の「ナニ」との反応から展開が変わり、 ようやく「オヤオヤ少し当が違った」と気が付きますが、このあたりに面白みがあります。 しかも、お汁粉を腹一杯に食べたのに、「御令妹のお手料理と聞いては腹が裂けるまでもこのままに引下がれん」 そして、まずは臭いで判断する。やはり、料理にとって香りは重要です。 そこで、料理法次第で美味しくなると説きます。当時は、まだ豚肉料理は珍しかったのでしょう。 ただ、酒が伴うので玉に瑕という顛末でした。