連載しています加熱講座より、 加熱の仕組みを理解しますと、理のある道具も見えてくると思います。 ここで、ロブストというイタリア生まれの魚肉焼き器をご紹介します。 ガスコンロの上に置いて焼く、極めてシンプルな道具です。
本体は、鉄にアルミがメッキしているアルタイト製。 お菓子の型などにもよく使われる素材です。 耐久性もあり、熱伝導も良くなっています。ロブストとはイタリア語で、「丈夫な」と言う意味。 なお、ハンドルは、鉄にクロムがメッキしています。 熱くなりますので、扱いにはご注意下さい。
基本的には、本体の金属が、ガスの炎で温められ、その熱を食材に伝えます。 特徴的なのは、本体に切り込んだ熱穴(スリット)があることです。 この穴によって、ガスの炎が程よく直火で伝わり、熱の効率を良くしています。 加えて、この穴が、食材から出てくる蒸気および煙の逃げ場にもなっているようです。 そのため、水分を飛ばして、パリッと表面を仕上がることができる。
ここで、同じように蒸気や煙を逃しやすい網焼きと比較してみます。 網焼きの魅力は、余分な油脂を落とせることにもあります。 その点でも、焼く道具に、穴が空いていることは有効です。 フライパンですと、食材全面がフライパンに接しますので、食材内部から出てくる脂に浸ります。 フライやソテーと言った感触で、焼くと言うよりも揚げた感じの仕上がりになります。 接触表面付近の蒸気や煙も飛ばしにくい。
本来の焼くは、食材表面の蒸気や煙を飛ばして、パリッと硬くなる仕上がりでしょう。 ただ、白身の魚などは、それほど脂をだしません。 また、フライパンでもキッチンペーパー等で拭き拭き調理することでも可能でしょう。 ところで、穴があることは、決して良いことばかりではありません。 油脂が落下して高温の熱源に触れやすい。
油脂などが200度以上の高温になると、たちまち嫌な臭いの煙を出します。 家庭内では、避けたいところ。 なお、網焼きは、炭火であれば、遠赤外線の放射を大いに期待できますが、 ガス火には遠赤外線をほとんど期待できません。
また、ガスの直火は、熱の当たる部分と当たらない部分との温度むらが生じやすい。 基本的にガス火であれば、炭火の直火とは違って、セラミックの板を媒介させた方が、 遠赤外線の放射を期待でき、均等な熱周りも実現できるでしょう。 ガスコンロで使う網焼きは、下部にセラミック板があるものを選ぶと良いでしょう。
そこで、イタリア生まれのロブストを考えます。 イタリアは、日本と同じように海に囲まれた国であり、魚を焼く文化もあったのでしょう。 「イタリアの伝統的焼き具」というタイトルが説明書に添えられていました。 やはり、世界に名だたる食文化のある国で生まれた道具です。
当社実店舗での長年の販売を通じて、魚焼きはこれに限ると太鼓判を押す方もおられます。 それが、お恥ずかしいことですが、住環境などの変化で、いつしか忘れられた存在に。 まず、足がある高さに注目して下さい。 高さがあるゆえに、黒焦げを避けて、より均一な熱周りを実現できます。 いわゆる魚を焼く時に理想と言われる「遠火の強火」をイメージできます。
この言葉は、もともと昔の熱源であった炭火を想定していると思います。 炭火が赤々とした強火の状態で、しかも、少し離した状態が本来の「遠火の強火」でしょう。 その時の炭火の温度は700度前後ですが、遠くすることにより広い領域で適温に至ります。 すなわち、食材の表面全体に、均一にむらなく180度前後の熱を伝えているのです。
180度という温度に関しては、こちらのページを参照下さい。 これと同じような状態を、火加減次第で、ガス火のロブストで実現できるとも言えるでしょう。 ロブストは、フライパンと同様に、本体に食材を置いた状態ですので、伝導する熱も生じて熱量が大変多い。 すなわち、フライパンと同様で、基本的に弱火で十分なのです。 もし、これを誤ってガスの強火にすると、すぐに黒焦げになります。 ちなみに、ガスの炎の温度は、高いところで1500度前後です。
ただ、食材が道具と接すると、こびり付きやすくなります。 特に、魚の皮はこびり付きやすいので工夫が必要です。 道具の方に、油を薄く塗っておく。 魚を常温に戻してから焼く。 魚の表面の水をキッチンペーパー等でよく吸い取っておく。 また、酢には、魚の皮の成分であるタンパク質を固める性質がありますので、魚に酢を塗布するのも一つの方法でしょう。
それでも、あわててひっくり返す時など、こびり付きやすいものです。 そこで、昔の人たちは、魚を串に刺して、こびり付くことのない直火で焼きました。 今はなき道具ですが、上写真のような「鉄灸(てっきゅう)」という商品がありました。 高さを出して、串を橋渡しする道具です。 この道具には、ガス火で美味しい魚焼きが食べたい執念に近いものを感じます。 ガス火ですので、直火ではなく、ロブストなどを置いて利用します。
魚は串刺しにされて、ロブストの上に橋渡されます。ロブストから離れるのです。 その結果、パリッとした焼き上がりに。 ただ、魚から滴る脂が、高温化のロブストに落ちると、かなりの煙がたちそうです。 脂の多い魚にはおすすめはできません。
なお、これが炭火であれば、ロブストも必要なく、直火で焼けます。 この炭火の直火のみで、魚串で焼くと言うのが、最高の調理方法かもしれません。 しかも、魚串を斜め垂直方向に立てれば、炭火に脂が滴ることも少ないでしょう。 これぞ、本来の魚焼き。しかし、家庭内では、この焼き方は困難極まります。 ならば、アウトドアで、楽しみはとっておきましょう。
気になるのは、ロブストから出る煙です。 この穴があることによって、熱の伝わりを良くしているとも言えますが、 脂が落下して高温化の熱源などに触れて、煙をモクモクと出すのではと想像します。 その時、ロブストの本体にある溝と、その本体の傾斜に注目して下さい。 奥の足が約5cm、手前の足が約3cmで、傾斜した構造になっています。
食材内部から出てくる脂が溝に流れて、本体手前の脂受けに溜まる構造になっています。 厳密に言えば、熱穴があり、脂は落ちますが、最大限に食い止めています。 穴の両脇に盛り下がった凹状の溝があるので、脂には粘着した性質があり、落下するよりも、 溝の方に流れて行きます。 このあたり、よく考えられています。
それでも、本体が高温になりやすく、食材周辺にある残り粕や油跡などは空焼き状態となり、 脂がそれらの部分に触れると煙を生じます。 そして、空焼き状態になったところや、火加減を誤ったりすると、焦げ付きがひどく付着することがあります。 その時、ゴシゴシ磨けることは魅力でしょう。非常にシンプルな作りですから磨きやすいのです。 また、壁面はありませんので、脂は周囲にチカチカと飛び散ります。 コンロ周りは、調理後サッと拭き取っていただきます。
加えて、このような道具には、今日高いハードルがあります。 ガスコンロとの相性です。五徳の形状などによっては、置くことができません。 また、油脂がコンロに触れると故障の原因になることがあります。 そして、最新の温度センサー付きのガスコンロでは使えません。 天ぷら鍋の火災防止のために、どのコンロにも温度センサーを付けるように今日なっています。 すなわち、今日の家庭用のガスコンロは、魚焼き器などの道具を考慮していない状況です。
かたや、電子レンジで焼いた魚が登場する今日です。 その仕組みを知れば、電子レンジで「焼く」とは、本来の焼くとは表現できないかもしれません。 とにかく、美味しさよりも、短時間に手早くと言うことでしょうか。 そんな時、スローフード運動が思い起こされます。 この運動は、イタリアから生まれました。 同じイタリア生まれのロブストは、このような日本の状況に、独りつぶやいているかもしれません。 「おいおい、そんなに急いで何処へ行く。」
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