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美味しさの科学

2010年11月22日

イタリア生まれの魚焼き

連載しています加熱講座より、 加熱の仕組みを理解しますと、理のある道具も見えてくると思います。 ここで、ロブストというイタリア生まれの魚肉焼き器をご紹介します。 ガスコンロの上に置いて焼く、極めてシンプルな道具です。

本体は、鉄にアルミがメッキしているアルタイト製。 お菓子の型などにもよく使われる素材です。 耐久性もあり、熱伝導も良くなっています。ロブストとはイタリア語で、「丈夫な」と言う意味。 なお、ハンドルは、鉄にクロムがメッキしています。 熱くなりますので、扱いにはご注意下さい。

基本的には、本体の金属が、ガスの炎で温められ、その熱を食材に伝えます。 特徴的なのは、本体に切り込んだ熱穴(スリット)があることです。 この穴によって、ガスの炎が程よく直火で伝わり、熱の効率を良くしています。 加えて、この穴が、食材から出てくる蒸気および煙の逃げ場にもなっているようです。 そのため、水分を飛ばして、パリッと表面を仕上がることができる。

ここで、同じように蒸気や煙を逃しやすい網焼きと比較してみます。 網焼きの魅力は、余分な油脂を落とせることにもあります。 その点でも、焼く道具に、穴が空いていることは有効です。 フライパンですと、食材全面がフライパンに接しますので、食材内部から出てくる脂に浸ります。 フライやソテーと言った感触で、焼くと言うよりも揚げた感じの仕上がりになります。 接触表面付近の蒸気や煙も飛ばしにくい。

本来の焼くは、食材表面の蒸気や煙を飛ばして、パリッと硬くなる仕上がりでしょう。 ただ、白身の魚などは、それほど脂をだしません。 また、フライパンでもキッチンペーパー等で拭き拭き調理することでも可能でしょう。 ところで、穴があることは、決して良いことばかりではありません。 油脂が落下して高温の熱源に触れやすい。

油脂などが200度以上の高温になると、たちまち嫌な臭いの煙を出します。 家庭内では、避けたいところ。 なお、網焼きは、炭火であれば、遠赤外線の放射を大いに期待できますが、 ガス火には遠赤外線をほとんど期待できません。

また、ガスの直火は、熱の当たる部分と当たらない部分との温度むらが生じやすい。 基本的にガス火であれば、炭火の直火とは違って、セラミックの板を媒介させた方が、 遠赤外線の放射を期待でき、均等な熱周りも実現できるでしょう。 ガスコンロで使う網焼きは、下部にセラミック板があるものを選ぶと良いでしょう。

そこで、イタリア生まれのロブストを考えます。 イタリアは、日本と同じように海に囲まれた国であり、魚を焼く文化もあったのでしょう。 「イタリアの伝統的焼き具」というタイトルが説明書に添えられていました。 やはり、世界に名だたる食文化のある国で生まれた道具です。

当社実店舗での長年の販売を通じて、魚焼きはこれに限ると太鼓判を押す方もおられます。 それが、お恥ずかしいことですが、住環境などの変化で、いつしか忘れられた存在に。 まず、足がある高さに注目して下さい。 高さがあるゆえに、黒焦げを避けて、より均一な熱周りを実現できます。 いわゆる魚を焼く時に理想と言われる「遠火の強火」をイメージできます。

この言葉は、もともと昔の熱源であった炭火を想定していると思います。 炭火が赤々とした強火の状態で、しかも、少し離した状態が本来の「遠火の強火」でしょう。 その時の炭火の温度は700度前後ですが、遠くすることにより広い領域で適温に至ります。 すなわち、食材の表面全体に、均一にむらなく180度前後の熱を伝えているのです。

180度という温度に関しては、こちらのページを参照下さい。 これと同じような状態を、火加減次第で、ガス火のロブストで実現できるとも言えるでしょう。 ロブストは、フライパンと同様に、本体に食材を置いた状態ですので、伝導する熱も生じて熱量が大変多い。 すなわち、フライパンと同様で、基本的に弱火で十分なのです。 もし、これを誤ってガスの強火にすると、すぐに黒焦げになります。 ちなみに、ガスの炎の温度は、高いところで1500度前後です。

ただ、食材が道具と接すると、こびり付きやすくなります。 特に、魚の皮はこびり付きやすいので工夫が必要です。 道具の方に、油を薄く塗っておく。 魚を常温に戻してから焼く。 魚の表面の水をキッチンペーパー等でよく吸い取っておく。 また、酢には、魚の皮の成分であるタンパク質を固める性質がありますので、魚に酢を塗布するのも一つの方法でしょう。

それでも、あわててひっくり返す時など、こびり付きやすいものです。 そこで、昔の人たちは、魚を串に刺して、こびり付くことのない直火で焼きました。 今はなき道具ですが、上写真のような「鉄灸(てっきゅう)」という商品がありました。 高さを出して、串を橋渡しする道具です。 この道具には、ガス火で美味しい魚焼きが食べたい執念に近いものを感じます。 ガス火ですので、直火ではなく、ロブストなどを置いて利用します。

魚は串刺しにされて、ロブストの上に橋渡されます。ロブストから離れるのです。 その結果、パリッとした焼き上がりに。 ただ、魚から滴る脂が、高温化のロブストに落ちると、かなりの煙がたちそうです。 脂の多い魚にはおすすめはできません。

なお、これが炭火であれば、ロブストも必要なく、直火で焼けます。 この炭火の直火のみで、魚串で焼くと言うのが、最高の調理方法かもしれません。 しかも、魚串を斜め垂直方向に立てれば、炭火に脂が滴ることも少ないでしょう。 これぞ、本来の魚焼き。しかし、家庭内では、この焼き方は困難極まります。 ならば、アウトドアで、楽しみはとっておきましょう。

気になるのは、ロブストから出る煙です。 この穴があることによって、熱の伝わりを良くしているとも言えますが、 脂が落下して高温化の熱源などに触れて、煙をモクモクと出すのではと想像します。 その時、ロブストの本体にある溝と、その本体の傾斜に注目して下さい。 奥の足が約5cm、手前の足が約3cmで、傾斜した構造になっています。

食材内部から出てくる脂が溝に流れて、本体手前の脂受けに溜まる構造になっています。 厳密に言えば、熱穴があり、脂は落ちますが、最大限に食い止めています。 穴の両脇に盛り下がった凹状の溝があるので、脂には粘着した性質があり、落下するよりも、 溝の方に流れて行きます。 このあたり、よく考えられています。

それでも、本体が高温になりやすく、食材周辺にある残り粕や油跡などは空焼き状態となり、 脂がそれらの部分に触れると煙を生じます。 そして、空焼き状態になったところや、火加減を誤ったりすると、焦げ付きがひどく付着することがあります。 その時、ゴシゴシ磨けることは魅力でしょう。非常にシンプルな作りですから磨きやすいのです。 また、壁面はありませんので、脂は周囲にチカチカと飛び散ります。 コンロ周りは、調理後サッと拭き取っていただきます。

加えて、このような道具には、今日高いハードルがあります。 ガスコンロとの相性です。五徳の形状などによっては、置くことができません。 また、油脂がコンロに触れると故障の原因になることがあります。 そして、最新の温度センサー付きのガスコンロでは使えません。 天ぷら鍋の火災防止のために、どのコンロにも温度センサーを付けるように今日なっています。 すなわち、今日の家庭用のガスコンロは、魚焼き器などの道具を考慮していない状況です。

かたや、電子レンジで焼いた魚が登場する今日です。 その仕組みを知れば、電子レンジで「焼く」とは、本来の焼くとは表現できないかもしれません。 とにかく、美味しさよりも、短時間に手早くと言うことでしょうか。 そんな時、スローフード運動が思い起こされます。 この運動は、イタリアから生まれました。 同じイタリア生まれのロブストは、このような日本の状況に、独りつぶやいているかもしれません。 「おいおい、そんなに急いで何処へ行く。」

こちらのお品は、現在販売終了となりました。