フライパンをはじめとする調理道具の安全性を考える時に、リスク評価という科学的な考え方がベースとなっていますので、 簡単にご紹介いたします。こちらは、国の食品安全委員会および国連のWHO(世界保健機関)なども採用されています。
まず、ある物質を有害なもの、有害でないものと分けないことです。 結論として、どんな物質も有害でありえるのです。 そして、有害か有害でないかは、摂取する量によって決まります。 スイスのパラケルススの言葉が分かりやすいです。 「すべてのものは毒であり、毒でないものなど存在しない。その服用量こそが毒であるか、そうでないかを決める。」
アルミやフッ素樹脂の安全性をどのように考えたら良いのかが見えてきます。
そこで、すべてのものが毒となりうる前提で大切なのは、服用量、どの程度の量を摂取するかという点です。 例えば、食塩であっても、一度に大量に摂取してしまえば有害なものとなります。 かたや、毒物が含まれると言われているものでも、少量というレベルであれば問題ありません。 放射線も同じように、太陽光等で日々浴びていますが、一度に多量と呼ばれる線量を浴びると有害なものとなります。
この摂取量という視点で安全性を判断していくことが、リスク評価です。 リスクとは、健康に及ぼす悪影響の発生確率と程度のことで、このリスクを科学的知見に基づいて客観的かつ中立公正に評価します。 このリスクは、物質の毒性(人の健康に及ぼす危害の程度)と物質の摂取量の掛け算で表すことができます。 すなわち、毒性が強くても摂取量が少なければ、リスクは低い。 かたや、毒性が弱くても摂取量が多ければ、リスクは高くなります。
また、どの程度の毒性かは、人間での実験はできませんので、動物実験で求めて行きます。 一定期間、毎日一定量の物質を動物に摂取させます。 その摂取量ごとのサンプルの比較を通じて、動物の状態を観察します。 摂取量が増えるとともに生理的変化を来します。 さらに増えると障害(中毒)を引き起こします。さらには、死に至ります。 この死に至る摂取量が、致死量と呼ばれます。
かたや、生理的変化すら起きない限界となる最大量が、無毒性量となります。 通常、1日あたり、体重1kgあたりの化学物質の量で算出されます。 そして、動物と人間との違い、人間の間での個体差なども考慮して、 より安全サイドに立って、安全係数と呼ばれる100で割って、さらに少なくします。 これが、ヒトの一日許容摂取量です。 人が一生涯、毎日摂取しても健康に悪影響がないと判断される量となります。
ただ、この量はそもそも動物実験由来のものであり、絶対安全と呼ばれるものではありません。 その点で、リスクがないとは、あくまで、このリスク評価が前提でリスクがないという意味合いです。 また、物質から多くの益を受けている今日の社会では、ある程度の折り合いをつけながら向き合って行く必要があります。 もちろん、科学を過信してはなりませんが、これを知っておくことで、情報が錯綜する中での一つの指針となって、 安心して調理に向き合えると考えます。
【参考にして下さい】
「科学の目で見る食品安全」(食品安全委員会)
「化学物質のリスク評価について〜よりよく理解するために〜」(独立行政法人製品評価技術基盤機構)