わが故郷には、豊橋うどんの名のもとに数多くのうどん店が立ち並びます。 最近は、豊橋カレーうどんで売り出していますが、その加盟店は現在51店舗にのぼります。 しかし、うどん汁の本道は、カレーと言うよりも、鰹節薫る出汁ベースのめんつゆでしょう。
その鰹節を脈々と提供して来たのが、創業100周年を迎えた 丸文(まるぶん)岩瀬商店です。 ひたすらに出汁の文化を継承して参りました。 只今は4代目の岩瀬 智(さとし)さんがお店を切り盛りしています。
初代の文吉さんが提案して開発したと言われる宗田かつお厚削りは、80年近くずっと販売して来た歴史を誇ります。 濃厚でコクがあり、魚臭くないのが特徴。わが故郷のうどん汁の味が此処にあります。 もちろん、うどん汁だけではなく、味噌汁、お吸い物、煮物の味付けのベースとなっています。 今日すっかり故郷の味に定着しています。
そんな岩瀬さんは、お店を継承してから、厚削りひとつにも、 いろんな人たちの苦労が詰まっていることを肌で感じて参りました。 漁師さんから始まり、いぶして作る鰹節職人、それを自店の技術で削ってパッケージに詰める。 何よりも、ご先祖たちの苦労があって、今のお店とご自身がある。
ですから、授かったお子さんには、文成(ふみなり)と名付けます。 それは、店名の丸文にもありますが、初代の文吉さん、二代目の文一さんへの敬意もあるのでしょう。 「文」という字に、特別の思いが込められています。 毎月発行している店舗新聞には、息子さんの視点で書かれた内容が続きます。 「子供のために」そんな視点で、お店を経営されています。
この時代、出汁ひとつも、簡単に化学調味料で済ませることもできますが、 子供のことを思うと、手間暇もいとわなくなる。 お子さんを授かった時こそ、食生活を見直す好機とも言われていました。 出汁の文化も、子供の存在が下支えしてくれているのかもしれません。 そして、お店も子供に継承して行きたいと望んでおられました。 先祖から受け継いだものを、未来に繋げて行く。それがご自分の務めのようです。
今回取材に伺った時に、お母様が、厚削りの出汁をお茶代わりに湯呑に入れてくれました。 ほっとする味わいです。岩瀬さんも、このお母様があってこそと思いました。 お母様のお料理は、薄味であり、素材そのものの味を生かす、しっかりとベースの部分で出汁が効いています。そんなお料理に育てられた岩瀬さんは、豊かな味覚をお持ちなのでしょう。 そこにも、親から子へ、きちんと継承されている姿を見るようでした。
そして、その豊かな味覚を生みだす出汁の文化を、さらに広く地域社会へ。 今日では、出汁入りせんべいを開発されたり、出汁教室などを開催されたりしています。 当店にご来店の節は、すぐ近くですので、鰹節もそうですが文化薫る岩瀬さんのお店にも ぶらりお立ち寄り下さい。
平成26年長月