わが故郷の愛知県と言えば、調味料の生産地が集積しています。
食を大切にした徳川家康のお膝元ゆえでしょうか。
味噌、醤油、味醂、酢、食用油が昔から製造されて来ました。
酒屋でよく登場する「三河屋」という呼び名も、そのような歴史を背景にもつゆえかもしれません。
そんな調味料の卸問屋を地元三河で手掛けているのが荒徳屋さんです。
当社で販売している竹本油脂マルホン胡麻油の代理店でもあります。
先代は、戦後の食糧難の時代に、食糧品配給所の所長を務めて、采配を振るいます。
その後は、それまでのつながりを生かして、家業の荒物屋を引き継ぎつつも、食糧品を扱う会社に移行。
やがて、御油(ごゆ)町の創業1772年の歴史をもつ大津屋(現イチビキ)の味噌を販売することに至ります。
時代は、食品スーパーの時代となり、いち早くスーパーでの調味料販売に取組む。
今日も地元の良質な調味料を中心に、自信と誇りをもって販売しています。
その荒徳屋の3代目である荒島さんは、先代の今は亡きお父様の教えを忠実に継承されています。
教えてと言っても、教えない教えと言えば良いでしょうか。
自分で体験して自分で気付くことに骨を折ってくれたと回顧されます。
戦地から帰られ、戦後の厳しい時代を経たゆえに、その経験が会社経営に脈付いていました。
今回取材に伺うと、何回ともなく登場する言葉が「ありのままでよい」でした。
会社を大きくしないでよい。大きくなると、うそをつくようになる。
身のほどをわきまえよ。自分自身を知れ。そして、等身大で生きよ。ごまかしてはならない。
そんな言葉が繰り出されます。それは、調味料と言う食品を扱う上でも
大切なことなのでしょう。きっと、調味料がその姿勢を教えてくれていたのかもしれません。
すると、苦境の時にも呑気でいられる。馬鹿にされても落ち込まない。
そこには、現実世界を肯定する信仰が伺えます。
「うまいものは、うまい。まずいものは、まずい。」そして、うまいものは、必ず喜ばれる。
そんな誠実さは、往時の三河屋の看板を彷彿とさせる、三河商人の心意気なのでしょう。
平成26年文月