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わが街・豊橋わが故郷・東三河

夜長し 学に打ち込む 技大生

「豊橋に決めましょう。」 昭和48年12月27日は、わが故郷の悲願が果たされた日となりました。 霞が関の文部省(現在の文部科学省)の応接室に、文部次官の声が響いたのです。 それは、新構想大学であった「技術科学大学院」の設置が、豊橋に決まった瞬間でもありました。 この大学は、全国に設置された国立高等専門学校(高専)の卒業生の受皿となるものです。

高専の修学年数は、通常の高等学校の3年間とは違い、5年間となります。 そのため、大学への進学は、3年からの編入となってしまい、履修科目や単位問題が障害となって 受け入れ枠が制約されていました。そこで、新しい大学院大学の創設に至るのです。

わが故郷は、民間主導で、理工系大学の設立に早い時期から動いていました。 東京オリンピックのあった昭和39年には、民間の経済人の集まりである豊橋青年会議所が、 産業都市を建設していくためには工科系大学が必要であることを提言しています。 また、並行して官側でも河合睦郎(ろくろう)市長と組んでいた青木茂(しげる)助役が中心となって 内密で事を進めており、時に周囲に漏らしていたそうです。

「戦後横一線でスタートした豊橋と浜松に大きな開きができた。 ヤマハ、カワイ、ホンダ、スズキなど、工業力の違いだ。 その根底にある浜松工専(現静岡大学工学部)の力が大きい。」 戦前までは、製糸業を中心に、お隣の浜松に産業面でも先を走っていた印象がありましたが、 いつの間にか大きく水を開けられた状態となっていました。 そこで、明日のわが故郷を見据えた場合、この工科系大学の設立が、 官民どちらの立場からも悲願でありました。

豊橋青年会議所では、アンケートを行って世論を高め、勉強会や講演会を行い 提言書「東三河の新しい頭脳」を発行するなど積極的に誘致活動を展開します。 折しも、大学紛争の吹き荒れる時代と重なり、大学不要論が広まっていたため、 陳情のため文部省に行っても一蹴される状況だったようです。 それでも、活動は継続されます。

この地元民の熱意が、国立高等専門学校協会や文部省の人たちを次第に動かして行き、 時の田中角栄首相が動きました。 昭和48年度予算には、技術科学大学院の調査費がついに計上されます。 その時、田中首相の選挙区である新潟県長岡市に設置されるのは確実とされ、 もう一箇所を全国で争う状況となったようです。 しかし、大蔵省(現財務省)の査定で、長岡市だけの予算になってしまいます。 そこで、河合睦郎市長が最後の一手に出ます。 年末の予算復活折衝にかけるのです。

その時のことを、豊橋青年会議所出身の神野信郎(のぶお)さんが述懐しています。 「河合市長から呼ばれ、出向くと、青木助役が一緒でした。 私は行かない。2人で行ってくれと言われ、最後の切り札にせよと言って指示されたのが、 天伯(てんぱく)の用地話でした。すでにもう買ってある。準備万端整っている。 そう言って説得するんだ。そんな趣旨でした。最後まで秘密にし、最後の切り札だぞ、と 言って念押しされました。」実は、用地取得は途上であり、大芝居を打つことになります。 その大芝居は奏功して、冒頭の決定に至るのです。

その後も、用地内にあった墓地と豊川用水の移設の問題なども乗り越えて、 昭和51年10月に開学式を迎えます。 その席上で来賓の永井道雄文部大臣が挨拶しました。 「東大・京大・東工大・名大等が為さんとして為しえなかった新しい形の大学である。」 そして、わが故郷に花咲いた豊橋技術科学大学では、夜となく昼となく研究が行われています。 秋の夜長の今日も、技大生は研究に没頭して、灯りは消えません。 それは、この時代の闇夜を照らす存在であることを象徴しているようであり、わが故郷の誇りでもあるのです。

平成24年長月