今年の猛暑を体験すると、ひときわ秋の訪れに心が躍ります。 これほど秋が待ち遠しく、愛(いと)おしく思われたのは初めてのことかもしれません。 秋という季節そのものに感謝が沸き、しかも収穫の時季とも重なって、感謝が大きく膨らみます。 ココ豊橋でも、この感謝が一杯になった時に、「豊橋まつり」が行われます。
その恒例の行事に、「子ども造形パラダイス」があります。 市内の小中学校のほぼ全生徒が作品を製作して、豊橋公園に展示します。 夏休みが終わると、図工や美術の時間に、その製作に取り組むのが豊橋っ子でもあります。 最近は、この時期に雨が降ることもあり、 担当の先生も子供たちの作品を濡らしてはなるまいとハラハラされていることでしょう。
市内在住の画家の方が言われていました。「子供たちの作品には、作為がなく素晴らしい。」 この行事も、賞やコンテストがある訳ではなく、ひたすらに製作させることを旨としているようです。 そして、心動かす作品が数多く生まれているので、今日まで続いているのだと思います。 さらに、それを裏付けてくれるのが、故郷の洋画家である松井守男(もりお)さんです。
先日、松井さんの回顧展が豊橋公園の中にある豊橋美術館で開催されました。 松井さんの絵を、どのように表現したら良いのか。 それは、絵画というよりも壁紙のようなと言っては失礼かもしれませんが、 大画布に細密な筆致で、均整のとれた美しい模様なるものが整然と描かれています。 それは、途方もない集中力を必要とする手作業なのだろうなあと想像できます。
朝日新聞の記事によると、松井さんがノルウェーの美術館を訪れた時に 幅1.5メートルほどの刺繍に目が留まります。それは、船が立ち並ぶ港の風景。 作者を尋ねると、「ただの漁師の妻ですよ。」 夫が漁に出ている間、不安を打ち消すために編んだ作品。 その時、衝撃を受けたようです。美術を学んでいなくても、人をこれだけ感動させることができる。 「必要なのは技術ではない。愛だ。」これが転機だったそうです。
松井さんは、大学卒業後に国費留学生としてフランスに渡り、現在はコルシカ島在住とのこと。 回顧展の折には、故郷の子供たちと壁画製作に挑んでおれました。 「もっと暴れて。自分の気持ちを爆発させて。」絵の具をバシャッと画紙にかけていました。
平成22年神無月