最近では、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの4大企業の頭文字をとって GAFA(ガーファ)を耳にするようになりました。 このGAFAが、小売業に与える影響は大きいのですが、改めて リアル店舗の在り方が問われているように思います。 そこで、アメリカの小売現場を見つめて来た小売コンサルタントが、 その現状を分析して、明日のリアル店舗を描いた著書「小売再生」(ダグ・スティーブンス著 斎藤栄一郎訳 プレジデント社)から 小売業者の私が学んだことをご紹介いたします。皆さんも一読されてみて下さい。
原題は「REENGINEERING RETAIL」で、2018年5月28日第1刷発行です。
まずは、投資家のマーク・アンドリーセンの衝撃的な言葉から始まります。 「もう小売店は店をたたむしかないでしょう。みんなネットで買い物をすませるようになりますから。」 それに対して、著者は、「ネット通販も店舗販売も、現在のありようとは似つかない姿になる。・・・ その結果、店とはどういうもので、何が店の本分なのかといった根本が書き換えられようとしているのである。」 まさに今日、小売業者には、その本分なるものが問われています。それは、原点に返る時でもあり、再生のチャンスでもあるのでしょう。
そこで、買物という行為とは何かを洞察しています。 「人間はモノを入手するためだけにショッピングをするわけではない以上、 実店舗が不要になることはない。現に技術が暮らしに入り込むにつれて、むしろ現実の店で 買い物を楽しむことの価値が高まり、大切な経験になるだろう。 本能的、感情的に結びついた体験への飢餓感が強まるからだ。」 ネット通販が広がることを通じて、ますます買物の本質が露顕するとも言えるでしょうか。 商店街で育ってネット通販に携わって来た私にとっても、そのことには共感できます。 ネット通販だけでは、何かが抜け落ちているのです。
ここでは、買物を「大切な体験」と表現しています。この体験および経験がキーワードとなります。 続いて、音楽業界のことを紹介します。今日では、野外ロックフェスティバルの観客動員数が爆発的に伸びている。 「音楽を聴くだけではなく、身体で感じ、ある意味で音楽と一体になりに行くのだ。 生の交流イベントに溶け込み、そのエネルギーを全身で浴びるのである。 生活のあらゆる面がほぼ例外なく何らかのデジタル化の影響下にある世の中では、身体を動かし、 五感や魂を揺さぶられる体験に大きな価値があるのだ。」これを実店舗での買物と重ねます。
「消費者は身体的な経験を求めているという事実を見失ってはならない。 わたしたちには、商品を購入する前に、一つひとつ手に取ってはどういうものか確かめたり、触ったり、動かしたりしたいという きわめて根本的なニーズがある。しかも、人とのふれあいがあり、活気あふれる賑やかな空間であればなおいい。 たとえ便利な技術であっても、わたしたちが買物をする理由の根底にある人間らしさを完全に支配することはできないのである。」 ここでのキーワードは、人間らしさです。これが買物をする理由の根底にあるとします。
「未来の小売スペースで買物客に提供できる最重要商品は体験になる。 そして、そのような時代に最大の勝利を収めるのは、体験をどうデザインし、どう実行し、どう評価すればいいのか考えている小売業者だ。」 その体験とは何か。そして私たちができることとは何か。それを考えてみることが必要でしょう。 そうなると、「真の競争相手は、分野に関係なく、市場で圧倒的な体験を売りにしている会社なのである。」 そこで、ディズニーランドのデザイナーの言葉を紹介しています。 「テーマパークのデザインを組み立てるうえで欠かせない基本理念となるのが、ストーリーだ。」
そのストーリーが小売にも問われているのだと。そのため、「小売スペースが従来の意味での商業の枠を超えて、 エンターテインメントやレジャーの一大拠点になるというのだ。 ここで取り扱う最重要商品は、志を同じくする熱心な仲間が集う体験そのものである。」 そして、「未来の販売員は、ブランドアンバサダー(大使)になる。つまり、その店が取り扱うブランドの製品の熱狂的な スーパーユーザーである。自らの直接的な体験を基に顧客と話ができる人物であり、ブランドを体現する究極の存在と言える。」 実店舗とは、そのストーリーを語り合う場であるのだと。
いつしか、小売業者は、従来からの考え方に制約されてしまっているのかもしれません。 その本分なるものをつかんで、今までのやり方を変えていかなければならないでしょう。 まずは、小売業者が変わらなければならない。次の言葉で結ばれています。 「それは、今ある常識は、将来、必ず誰かの手で徹底的につくり直されるということだ。 そして、今、あなたが決めなければならないことは、その『誰か』に自らが名乗りをあげるかどうかなのだ。」 今一度、小売業者はみな相応の覚悟をもって、小売の本質を追求して、店を本来の姿に再生すべき時です。