今日は映画監督の小津安二郎さんの誕生日であり命日でもあります。 最近はじめて小津さんの作品を観ました。タイトルは「秋刀魚の味」。 昭和30年代の家族の日常、家族のつながりを丁寧に描いて、静かな感動を覚えました。 もともとは、八十を越える司法書士の先生にすすめられて小津作品に興味を持ちました。 先生は、大の映画好きで、「昔の映画は良かったよ。」と教えてくれました。
小津さんのその作品は、映像に品格なるものが伺えました。 いわゆる大衆に媚びない、商業主義を感じない、監督の世界観をそのままに、 人々の日常を飾らず、等身大で正確に描いていると感じました。 主人公は、奥さんに先立たれた海軍出の父親で、戦後会社員となり、 年頃の娘を嫁に出すまでの、同級生・恩師との交流、家族の葛藤を描いています。 小津さんの最後の作品でもありました。
平凡と言ってしまえば、語弊があるかもしれませんが、 身近にどこにでもありそうな光景を淡々と描いています。 タイトルの「秋刀魚の味」が、どうして「秋刀魚の味」なのか、 映像だけではすぐに理解できませんでしたが、そこに含蓄がありそうです。 家族で食事する茶の間の場面や、同級生や恩師と酒を飲む場面が多くあります。 道具も登場しながら、食べたり飲んだりして物語は進んで行きます。
日本人にとっての「秋刀魚」は、日常のありふれた料理の一品でありますが、 その日常には、実は深い味わいがあるのだと教えているようでした。 当時の女性は、「お台所を守る」という言葉があるように、家事をすることに責任を負っていました。 主人公の娘は、父親が母親に先立たれて、料理などの家事を一手に引き受けて、 結婚願望がありつつも、父親と弟の家事に日々励んでいます。
父親は娘が家にいれば家事には困りませんが、娘の将来のことを考えると、 娘を嫁に出した方がよいと判断します。 最終的には、娘の弟である次男と二人で生活することになりますが、 映画では娘を嫁入りさせたところで終わってしまいます。 若い女性と再婚した同級生も登場しますが、父親はそんな気にはなれない。 これからは、男手で家事をしていくことになるのだと思います。
すると、家族みんなで食べていたことが愛おしくも感じられて来ます。 この家族を通じても、やがて家族というものは、別れを迎えて行くことを察することができます。 だからこそ、今家族が食卓を囲んでいる日常を大切にして欲しい。しっかりと味わって欲しい。 そこには、幸せが詰まっているのだよと教えているようです。 いつしか忘れてしまったものを気づかせてくれる作品とも言えるでしょう。
当社も道具の販売を通じて、そんなメッセージを込めて参りたいと思いました。 「お料理上手は幸せ上手」を掲げていますが、お料理を作ること、お料理を一緒に食べることを サポートしてくれるのが、当社の道具たちでもあります。 同じように、当たり前すぎて、その価値を忘れてしまうものかもしれません。 そして、先生に感想をお伝えすると、「小津なら、今度は『東京物語』を観て下さい。」