料理道具専門店 フライパン倶楽部

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代表者のエッセイ

2014年12月24日

渡辺崋山とお料理

当店先代の出身地である田原の藩士であった渡辺崋山という人物をご存知でしょうか。 商人に対する心構えを教える「商人八訓」が当店にも掲示されていました。 当店のルーツとなる人物でもあり、来年の当店年賀状には、この崋山の言葉をご紹介予定です。

それが「八勿(はっこつ)の訓戒」です。 これは、天保飢饉の際、資金調達のために大阪商人のもとに崋山が人を遣わせます。 その時の交渉の心構えを、八つの勿(なか)れ、してはならいこととして教示した言葉です。 この言葉、交渉事はもちろん、会社経営、そしてお料理にも通じるように思いました。 その言葉をお料理にあわせて今回ご紹介してみます。

一.面語(めんご)の情に常を忘する勿(なか)れ

面語とは、対面して話すことです。その時に感情が働くものですが、平常心を失わないように 戒めています。お料理は、感性だけではなく、文字通り理も必要です。 自分の感情を制御して、落ち着いた心で挑むと美味しくなります。

一.眼前の繰り廻しに百年の計を忘する勿れ

目先の美味しさだけにとらわれてしまうと、お料理も台無しです。 常に全体を考えて、段取りよく進めていくこと。 調理だけではなく、材料の選定、道具の選定、材料の下準備、盛り付け、後片付け等々まで 総合的に考えていく必要があります。

一.前面の功を期して後面の費を忘する勿れ

出来上がった料理が美味しくても、そのために費用が多くかかってしまっては、 続いては行きません。どの程度の費用がかかるのか。常にコストのことを考えつつ 美味しい結果を出して行く必要があります。 そのバランスを忘れてはなりません。

一.大功は緩にあり機会は急にありといふことを忘する勿れ

美味しさは一日で完成するものではなく、試行錯誤の繰り返しによって近づいて行くものです。 しかも、常に取組む必要があります。 料理は理論も大切ですが、それ以上に実践が大切です。まず、やってみる。 その機会を逃してはなりません。

一.面は冷なるを欲し背は暖を欲すると云(いう)を忘する勿れ

冷静さとあわせて、温かな心も必要です。 そこには、作り手の温もりのある手を感じることができます。 お料理を食べる人の幸せを願いながら、祈りながら、手間暇を惜しみません。 そんな愛情から美味しさは生まれて参ります。

一.挙動を慎み其恒(そのこう)を見らるる勿れ

火加減を控える、慎みとも重なります。そこには、エネルギーや食材、 道具に対する敬意も感じられます。 自分本位になってしまうと、美味しさも失われてしまうようです。 物を慈しみ、丁寧に扱うと、美味しさも自然と見えて参ります。

一.人を欺(あざむ)かんとする者は人に欺かる
不欺(あざむかず)は即(そく)不欺己(おのれあざむかず)といふことを忘する勿れ

人ではなく、食材に置き換えます。 観察を通じて、食材の状態から謙虚に学んで行くところに美味しさは待っています。 ところが、それをそのまま素直に受け止めずに、自分の都合で解釈をしてしまう。 お料理には、素直な心が欠かせません。

一.基立て物従ふ基は心の實(じつ)といふことを忘する勿れ

基本が出来ていれば、自然に後は従ってくる。その基本とは、誠実とも言えるでしょう。 あるいは、それを愛と呼んでも良いかもしれません。 「美味しいお料理を食べてもらいたい」その一途な思いから、すべては始まります。

崋山はメモ魔であり、常にいろいろなものを観察してスケッチしていました。 そんな崋山に料理をさせたら、さぞ美味しいものが出来たのではと想像してしまいます。 当店の掲げる「お料理上手は幸せ上手」という言葉も崋山に系譜があったのかと思えて参りました。 この崋山の教えを胸に、新しい年に挑んで参ります。