フライパンと言えば、鉄素材が相応しいと言われますが、 ステンレスのフライパンを今回考えてみます。 ステンレスは鉄(Fe)を主成分(50%以上)とし、クロム(Cr)を10.5%以上含むさびにくい合金です。 クロムを含むことで、さびにくくなりますので、大変重宝な素材です。
ただ、お鍋やフライパンの場合、ステンレス単体では、熱伝導性が良くないので、 他の金属と張り合わせた多層構造のものが主流となっています。 ちなみに、熱伝導率という指標では、以下のようになります。 高い順に、銅【398W/(m・K)】、アルミ【237】、鉄【80】、ステンレス【27】です。 (これは、厚さ1mある物質の下面から上面に温度差が1Kある時に、1平方mの面積を1秒間に流れる熱量となります。)
そこで、多層構造にして、ステンレスの間に熱伝導率の良いアルミや鉄などを挟んで、熱伝導性を良くするのです。 当社定番のステンレス鍋は、 柳宗理のシリーズを除いて、 どれもステンレス多層となっています。 そのため、お料理道具の世界では、ステンレスのフライパンと言えば、ステンレス多層のフライパンを指しています。 なお、ステンレス単層のフライパンは、熱伝導性が悪いため、ほとんど見かけません。
ハンドル接合跡が内部にはないためお手入れも楽です。 深みも程よいので浅型鍋としても使えます。
そこで、ステンレス多層の代表的なフライパンが、宮崎製作所のオブジェとなります。 こちらは、ステンレスの間にアルミを挟んだ三層構造となっています。 通常のオブジェのシリーズは、 鉄を挟んだステンレス三層構造となります。 しかし、フライパンは、熱伝導性を高めるために、敢えてアルミを採用しています。 さらに、板厚も2.4oとかなり厚くしています。 そのため、このステンレス多層は、熱伝導性も良いばかりか、蓄熱性も良くなりますので、 フライパンとしては理想的な素材とも言えます。
そこで、鉄のフライパンと比較してみます。 鉄のフライパンの特徴は、油馴染みの良さとなるでしょう。 鉄の表面には、凹凸状の緻密な酸化皮膜が形成されます。 これは、ミクロン単位の膜ですが、凹の部分に油が浸透して、油とフライパンが密着した状態を作っています。 これが、温度むらやこびり付きを解消して、美味しく調理する要素になっています。
かたや、ステンレスの表面にも不動態皮膜が形成されます。これが錆びにくくしている膜でもあります。 こちらは、ミクロンの千分の1に当たるナノメートル単位。 鉄の酸化皮膜よりかなり薄いものとなり、鉄のような油が馴染む状態には至りません。 ただ、ステンレスの表面が粗く仕上げてあることもあり、 フッ素樹脂加工のように油が弾かず、油は水平方向に広がって行きます。 そのため、卵焼きやホットケーキは、得意とするところで、 よく予熱して弱火でじっくり焼けば、綺麗に仕上がります。 また、オムレツは、熱伝導性と蓄熱性に優れていることにより、綺麗に仕上がります。
オブジェフライパン20pでホットケーキ(森永ホットケーキミックス1袋150g分、ケーキ4枚)
ただ、野菜炒めなどは、フッ素樹脂加工と同じで、野菜から出て来る水の逃げ場がないためか、 鉄フライパンと比べると、シャキッとした仕上がりには劣るかもしれません。 また、多層になると、板厚が厚くなって重くなるため、操作性の点で少々難があるかもしれません。 それでも、全般的には、ステンレス多層は、大変優秀なフライパンでもあるでしょう。 「こびり付きやすい」というイメージもつきまといがちですが、これは使い方の問題だと思われます。 こびり付きは、温度むらがあるなど、ある部分の温度が低い時に生じます。
そのため、よく予熱することが大切です。予熱が甘い状況で食材を入れてしまえば、こびり付きます。 同じくステンレス多層のビタクラフトなどでも、 「水滴を落とすと玉になってコロコロと転がる状態まで加熱する」 しっかりと予熱することを勧めています。これが大きなポイントです。 そのため、予熱をしっかりせずに、慌てて調理をしてしまうと、こびり付いてしまうので注意します。
こちらが今回実際にできたものです。
ホットケーキは大変綺麗にできました。
オムレツも比較的失敗なくできると思います。
油と渾然一体となった鉄フライパンでは、こんがりと焼けてシャキッと仕上がる理想形ですが、 ステンレスも使い方次第で、それなりに調理ができて、鉄フライパンと同様に末永く使用できる。 また、浅鍋感覚で煮付けなどの用途にも使えます。 しかも、ステンレスは、さびにくくお手入れも比較的楽になります。 さらに、電磁調理器(IH)にも対応していて、多層構造をとることによって、丈夫で変形にも強くなっているメリットもあります。 予熱をきちんとするなど適切な使い方をすれば、大変重宝なフライパンであり、 電磁調理器が普及している今日は、もっと見直しても良いと思います。