電気が止まった時に、生活力が試されます。 いつしか、電気をはじめ便利なモノに依存してしまい、生身の人間の力が衰弱していないか。 今回の震災で深く反省いたします。 それは、まず自分で考える力とも言えるでしょう。 考えることができれば、便利なモノがなくても、生活のやりくりができてしまう。 お金だけの問題ではありません。工夫ができます。応用がききます。 具体的には、お料理にてきめんに表れると思うのです。
電気炊飯器がなくても、お米を炊くことができる。 だしを取って、味噌汁を作ることができる。 卵があれば、ゆで卵、目玉焼き、卵焼き、オムレツができる。 野菜や麺類があれば、ゆでることができる。 魚や肉を焼くことができる。 生活力とは、自分で調理ができることと言えます。自活という言葉も然り。 いつしか、毎日の生活がなおざりにされてしまい、それを便利なもので間に合わせてしまう。 自分でお料理をしなくても、スイッチひとつで。あるいは、コンビニやスーパーで。 その延長でこの日を迎えているかもしれません。
ですから、電気が止まった今こそ、生活を見直す絶好の機会でもあります。 そこには、生きる力や喜びも潜みます。 一時的に、この震災の危機を乗り切って終わってしまうことなく、 この危機を通じて、私たちの生活、私たちの生き方そのものの刷新が求められているのだと思います。
そこで、日本人にとっては、まず、ご飯だと思います。 電気炊飯器なしでご飯を炊くことは、この機会に身につけておくと良いでしょう。 お料理の本質である、「加熱」にも目が開かれます。 なるべく厚手の蓄熱性のあるお鍋を選ぶとより良いでしょう。 ここで、炊飯の仕組みを整理してみます。 炊飯は、いろんな条件がからみますので、単にレシピ通りではうまく行きません。 仕組みを理解して、考えながら挑んでみて下さい。 これこそ、本来のお料理です。
お米の主成分は澱粉(でんぷん)です。この澱粉は、そのままでは堅くて食べられません。 そこで、加熱して、澱粉を糊(のり)状に柔らかくさせます。 これが炊飯であり、科学的には澱粉のアルファ化と表現します。 具体的には、「98度の温度を保って、20〜30分間加熱させること」が原則です。 その結果、お鍋に保温力がないと、この98度を保つことができません。 そのためには、蓄熱性のある厚手の鍋が有効になります。
ここで、薄手のお鍋で火力を強くすればよいと考える人がいます。 すると、炎の当たる部分に熱が集中して、焦げ付いてしまう。 とにかく、薄いお鍋は、温度むらが生じやすいのです。 その点、厚手のお鍋であれば、保温力が良いのはもちろんのこと、 火力を強くしても、マイルドに熱を伝えるために、焦げ付きを抑えることもできるのです。
澱粉は、煮立って来ると、泡立ち吹きこぼれる性質がありますので、吹きこぼれないように火力を調整します。 個人的には、煮立つまで、蓋をしなくてもよいと思います。 あるいは、文化鍋など、 縁の形状より吹きこぼれにくい鍋を使うのも有効です。 そして、水分がなくなって来たら、火を止めないと焦げ付きます。 そのために、火を止めて蒸らすことになります。 その時、フタを開けてはなりません。それは、原則の98度を保てず、温度が下がってしまうからです。 すなわち、蒸らしとは、余熱を利用して、加熱は継続進行中なのです。
ここで、炊き上がりの理想とは、浸っていたお水が、蒸発とともに、お米に吸い込まれて、 ちょうどなくなった状態と言えます。 その時、炊く前の水加減が重要だと分かります。 理想のご飯に含まれる水と、蒸発する水から逆算しますと、お米の重さの1.5倍程度の水が基準量です。 ただ、新米なら、含まれる水分が多いので、水は少なめとなります。 もうひとつは、事前によく吸水させることが重要です。 それは、米粒内部まで、熱を通すためです。吸水させていないと表面にしか熱が至りません。 すなわち、芯のあるご飯になってしまいます。 かといって、吸水させ過ぎると、形が崩れやすくなり、べたついた柔らかいご飯になってしまいます。 常温で、30分〜2時間くらい漬けておくと良いでしょう。
昔から言い伝えられて来た炊飯方法の言葉をご紹介します。 「はじめチョロチョロ、中パッパ、ブツブツいうころ火を引いて、 ひとにぎりのワラ燃やし、赤子泣いても蓋とるな」 当時は、カマドとお釜で炊くスタイルでしたが、適切な加熱と言う点では、この言葉は今日にも通じています。 私なりにアレンジして、現代風に解説します。 「はじめチョロチョロ」は、はじめは弱火でよく吸水させる。 今日では、火をかける前によく吸水させておけば不用です。 「中パッパ」は、続いて強火でとなります。 事前に吸水させていれば、火にかける時には、強火でのスタートとなります。 「ブツブツいうころ火を引いて」は、沸騰したら火を弱くします。吹きこぼれ防止にもなります。 「ひとにぎりのワラ燃やし」は、火を止める直前の追い炊きのことで、余分な水を蒸発させる事と 蒸らしの前にお鍋が冷めないようにする下準備でもあります。 「赤子泣いても蓋とるな」は、火を止めて蓋をとらず、しばらく余熱で蒸らすことです。
この言葉からのポイントは、 1.事前によく吸水させること 2.煮立つまでは一気に強火で炊くこと 3.消火後によく蒸らすことです。 加えて、 4.「98度の温度を保って、20〜30分間加熱させること」の原則と 5.適切な水加減に心を配って下さい。 この炊飯には、お料理の基本が集約されています。それは、自分で考えて行うからです。