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精読「食道楽」春の巻

第十四 廃物利用

豚料理の食卓は忽(たちま)ち勝手へ運び去られたり。娘お登和が盆へ載(の)せて持来れるは珈琲茶碗(こーひーぢゃわん)と小さき菓子皿 「大原さん、食後のお菓子を一つ召上って御覧なさい。これは林檎(りんご)の淡雪(あわゆき)です」 大原は苦しそうに我腹(わがはら)を撫(な)で「モーどうも水も通りません」主人笑いを忍び 「だがね大原君、これもやっぱり化学作用の一つで肉を食べた後に菓物(くだもの)を喫(きっ)すると消化を助けるぜ。 食物と食物とがお互に消化作用をする。昆布(こんぶ)と竹の子と一所に煮ると双方とも非常に柔(やわらか)くなるようなものだ。 餅を沢山食べ過ぎた時大根卸(だいこおろし)を喫すると忽(たちま)ち胸がすくのもその訳だ。 心太(ところてん)を食べて黄粉(きなこ)を舐(な)めると心太が溶けてしまうし、 牛肉を食べた後にパインナプルを喫すると消化が速い。 試みに牛肉へパインナプルの汁をかけておくと肉が溶けて筋ばかり残るそうだね。 何(なん)でも肉の後に菓物を喫するのはいいよ、一つ遣(やっ)てみ給え、その淡雪は口へ入れると溶けるぜ」と言われて、

大原も一匙(さじ)口へ入れ「なるほど溶ける非常に美味(うま)い。お登和さんのお料理だと思うと一層美味(おい)しゅうございますが、 これは林檎をどうしたのです」と段々直接に言葉を交えんとす。お登和はその褒詞(ほうし)食物にありと信じ 「それは貴君(あなた)が下宿屋でなさる事も出来ます。先ず林檎の皮を剥(む)いて小さく切って心(しん)を除(と)って 鍋へ入れますが水は少しも要(い)りません。水気が少しでも交ると早や早や悪くなります。水なしにお砂糖を少し入れて 最初は蛍(ほたる)のようなトロ火へかけておくとその温気(あたたまり)で林檎から汁が出て鍋一杯になります。 その時段々火を強くして暫(しば)らく煮ると林檎が柔(やわらか)になって、それを汁と一所に裏漉(うらごし)にしてゼラチンで寄せるのです」

大原「ゼラチンとは何です」娘「西洋の食用膠(しょくようにかわ)で、食品屋には何処(どこ)にでもあります。 大林檎一ツへ薄いゼラチンならば二枚位厚いのなら一枚位を水へ漬(つ)けておくと柔になって火にかけると直きに溶けます。 その中へ林檎の裏漉しにしたのを入れてよく掻(か)き交(ま)ぜてそれから器(うつわ)ごと水の中へ漬けると 寒い時には一時間位で冷えて固まります。林檎はフライにしてもお菓子にしても何の料理に使っても結構ですが この淡雪が一番美味(おい)しゅうございます。ゼラチンと交まぜる時レモンとか杏(あんず)の液(しる)とかを加えるとなお美味しくなります」 と御馳走よりも講釈が多し。

大原今度は珈琲を飲み「これは色が薄くって味が濃くって大層妙ですな」 お登和「それは玉子の卵白(しろみ)でアクを除(と)りましたのです」大原「ヘイ随分贅沢(ぜいたく)な珈琲ですな」 お登和「贅沢のようで贅沢でありません。外(ほか)の事で玉子を割りますとその殻(から)をそっくり保存(と)っておきます。 殻の中へいくらかずつ白みが残っていますから空気に触れないようにしておくと固まりません。 珈琲を煎じる時一人前にその殻を二つか三つも交ぜてよく砕いて掻廻(かきまわ)しますと珈琲のアクがすっかりその殻についてしまって 漉(こ)さずに茶碗へ注(つ)いでも黒い粉が出ません。第一味が淡白になって結構です」 大原「なるほどいわゆる廃物利用ですな。注意一つで何でも役に立ちますね」 主人「だから君が妻君を貰ったら僕の家へ稽古によこし給え。食物の廃物利用はまだ外にも沢山あるから」 大原「またその事を言う。僕は泣きたくなるよ」と遂に暇(いとま)を告げて下宿屋に帰りぬ。今夜の夢には定めてお登和嬢を見ん。

注釈:
○昆布と竹の子と煮る前に竹の子を皮附のまま昆布と共に長く湯煮(ゆで)て冷めるまで 釜の中へ蒸らしておくと双方共に柔くなる。昆布なければ若布(わかめ)にてもよし。
○昆布は外の野菜および穀物類を消化させる功大なり。
○林檎のフライは林檎の皮を剥き心をとり薄く切り別に玉子と米利堅粉(めりけんこ)あるいはウドン粉へ 塩と砂糖にて味附ける濃きころもを作り、それへくるみてフライ鍋にて揚げる。
○上等製の林檎フライは前文の品をブランデーと砂糖に一時間漬けおき、玉子の黄身と米利堅粉とを牛乳にて溶きかつねりて固くし、 白身を泡立たせてそれへ交ぜるなり。油にて揚げる時最初は火を弱くして緩々(ゆるゆる)揚げ後(の)ち火を強くして卸(おろ)すべし。
○珈琲のアクを抜くに玉子の白身を使って最初に珈琲の粉と交ぜて煎じれば殆(ほとん)ど透明な汁となる。
○ゼラチンを用ゆる代りに寒天を用うるもよし。然(しか)れども寒天は酸性なる故余り酸気の強きものは寄らず。
○寒天の酸性を中性にして用ゆる場合には少しく曹達(そうだ)を加う。しかし酸気のものには不可なり。酸気のものは曹達を沸騰せしむ。

コメント:
食物と食物とがお互いに消化作用をする。いわゆる食べ合わせを提示しています。 肉を食べた後に果物を食べる。昆布と竹の子を一緒に煮る。餅を食べた後に大根おろし。心太と黄粉。牛肉とパイナップル。 林檎の淡雪は、誰でも手軽に作れそうですが、食後のデザートには意味がありました。 昔懐かしいゼラチンや寒天を見直して、上手に役立ててみたいものです。 そして、珈琲粉の中に、卵の殻を入れて、苦みをとる。捨ててしまう廃物の有効利用です。 「注意一つで何でも役に立つ」そのような注意の目を向けて行きたいものです。 いかに捨てずに使い切るか。それを考えることが、お料理そのものかもしれません。 使い捨てという言葉をしばしば耳にする時代には、心したいことであり、そこにこそ美味しさも待っているようです。