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精読「食道楽」春の巻

第二十二 芋章魚

同じ品物にても料理によりて味に美悪(びお)の差あり。心なき人々は高き代価を払いて悪き味の物を喫す。 料理法の進まざるは一家経済の大損失なり。お登和嬢は妻君の頼(たのみ)に黙し難(がた)く 「章魚(たこ)とお芋(いも)の柔煮(やわらかに)は随分美味(おいし)いものですが チットお昼の間に合いません。晩の副食物(おかず)ですね」 妻君「晩でもようございます。晩までには宅も旅から戻りましょうから」と良人(おっと)の 御馳走に供せんつもり。大原が横際(よこあい)より 「僕もお登和さんも晩までいて御相伴(おしょうばん)を致しましょう」 お登和は余計な事といわぬばかりに「それではともかくも拵(こしら)えておきましょう、 大原さん御免蒙(ごめんこうむ)ります」と逃げるように台所へ行く。

妻君も客を残して立(たっ)て行く。大原独(ひと)り茫然(ぼうぜん)として 座敷にありしが半襟の失敗にて心安からず。 この上はせめて料理の事の手伝いでもしてお登和嬢の機嫌を取らんと自分も立って台所へ行き 「奥さん、僕もお手伝いを致しましょう、何か僕に相応した御用はありませんか」 妻君「そうですね、ちょうどよい事があります。貴君(あなた)はこの大根で 章魚を丁寧にトントンと叩いて下さい」

大原「ハハア章魚叩きですか、叩くとどうなります」 妻君「大根でよく叩いてその大根を削(そ)いで章魚と一所に湯煮(ゆで)ると 章魚が極(ご)く柔(やわらか)になりますとさ。お箸(はし)で楽にちぎれるそうです」と今覚えたる料理の伝授。 お登和は間違いのなきように再び説明し「奥さん、今も申した通り決して最初に章魚を塩で揉(も)んではいけません。 章魚と鮑(あわび)は人によるとよく塩で揉む事がありますけれども塩で身が締まってどうしても柔くなりません。 鮑のフクラ煮も決して塩をつけずに糠(ぬか)でくるんで章魚のようにやっぱり大根で叩いてその大根と一所に煮ますが 弱い火で気長に煮なければなりません。全体芋章魚と言うのは箸でちぎって見て孰方(どちら)が章魚だかお芋だか分らないように 柔くなければ本式でありません」

妻君「そうですかねー、章魚を煮るとき小豆(あずき)を交ぜると聞きましたがあれはどうです」 お登和「小豆を交ぜて煮ますと柔くなるよりも溶けるので、疣(いぼ)なんぞは直(じ)きに消えてしまって その癖心(しん)に堅い処が残る事もあります。西京(さいきょう)では大豆(だいず)を交ぜて煮ますし、 大阪では蒟蒻(こんにゃく)を交ぜて煮ますし、外の処ではお茶を交ぜることもあり、 白水(しろみず)で湯煮(ゆで)る事もありますが章魚の形を崩さずに心まで柔く煮るのは大根で叩くのが一番です。 処によると鮑を蕎麦粉(そばこ)へくるんでおいて柔に煮る人もありますがこれもやっぱり大根の方がいいようです」

妻君「それで里芋の方は普通(なみ)の煮方でようございますか。どうもこのお芋は堅くって困ります」 お登和「イイエ里芋も箸でちぎれるようにしなければなりません。それには一旦里芋をよく蒸してそれから章魚と一所に味をつけて煮ます。 その時醤油を先へ入れてはいけません、塩気で締まって柔くなりませんからお砂糖ばかりで長く煮抜いて 火から卸(おろ)す前にお醤油を加えます。野菜を煮るのは何でもその通りで醤油を早く入れると柔になりません。 お砂糖で煮抜て後から醤油を加えるのです」

妻君「なるほどね、では里芋を蒸しましょうか」お登和「ハイよく蒸して下さい。蒸す方を長くして煮る方を短くしないとお芋の形が崩れます。 里芋ばかりでありません。八ツ頭(がしら)でも唐(とう)の芋でも長く蒸してザット煮るのです。 西京で名代(なだい)の芋棒(いもぼう)なんぞもよく蒸してあるから柔いのです」 と一々懇(ねんごろ)に説明する。大原は大根を手に取って力一杯に章魚を叩きおりしがお登和嬢振返(ふりかえ)りて思わず言葉をかけ 「大原さん、それでは叩き潰(つぶ)すのです、叩くだけにして下さい」 大原「ハイハイ畏(かしこま)りました」とお登和嬢に口を利(き)かるるは小言(こごと)にてもまた身に心地好(ここちよ)し。

注釈:
○章魚は本文の外に酒にて柔く煮る法もあり。そは最初に塩を用いずして水にてよく洗い、小口より切り、沸立ちたる湯に入れ、箸にて手早く掻廻し、 直ちに冷水へ入れ、笊(ざる)に揚げ、鍋の底に煮笊を敷きてその上に列(なら)べ、水と酒とを半ばずつにして四時間ほど煮詰め、 能(よ)く柔に煮えし時砂糖を加え、醤油を注さして再び煮上ぐるなり。
○章魚の塩煮は前文の如く柔に煮たるものへ醤油を加えずして食塩を加う。
○里芋は皮を剥いて切って長く蒸すなり。蒸す時注意して列べざればネバリにて湯気通らぬ事あり。
○章魚は蛋白質壱割七分、脂肪四分五厘あれども柔に煮ざれば消化甚だ悪し。
○里芋の柔煮は大なる物と小なる物とを別々にすべし。大小を共に煮れば大は煮え足らず小は煮え過ぎて工合(ぐあい)悪し。最初より粒の揃いたるを択ぶがよし。

コメント:
「料理法の進まざるは一家経済の大損失なり」と結論を上げて、その具体例として芋章魚の料理法を紹介しています。 章魚を柔らかくするためには、事前に大根で叩いておくこと。これは肉叩きにも通じます。 その力加減は、潰してはだめであり、叩くだけ。いろいろなやり方があるようですが、お登和は、それを自分で試して来た自信が伺えます。 それに対して、妻君は受け売りであり、お登和の言われることを無批判に信じているのみ。 今日の時代は、ますますネットの情報を鵜呑みにしている傾向が強くなっています。 その時、その真偽を自分で実験してみるお登和の態度が相応しいでしょう。 この態度こそが、進んだ料理法にも思えて参ります。知識だけではなく実験を繰り返すことで、美味しさに至れます。 加えて、経済的にも良くなる、おまけも付いて参ります。