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精読「食道楽」春の巻

第二十 大得意

大原の声を聞きて妻君は座敷の方(かた)へ赴(おもむ)けり。 お登和嬢も続いて立ちぬ。さりながら妻君の今の言葉が少しく気にかかりて足も前へ進まず。 もしや妻君が我身をあの人に世話せんとする心にはあらぬかと気味の悪きように覚えて台所の口に立ったまま 窃(ひそか)に座敷の様子を窺う。

大原は携え来りし大風呂敷を大切そうに脇へ置き「奥さんお登和さんは此方(こちら)に来ておいでですか」 と挨拶より先にその事を問う。妻君その様子の劇(あわ)てたるを笑い 「ハイ来てお在(いで)です、モシお登和さん」と振返りて呼びけるにお登和も詮方(せんかた)なく座敷へ入りしが 心に憚(はばか)る事ありけん、余所余所(よそよそ)しく大原に黙礼せしのみ。なるたけ遠く離れて坐を占めたり。

大原は昨日の御馳走にてズット親しくなりし量見(りょうけん) 「お登和さん昨日は誠に御馳走さま。僕は昨日のお礼にお登和さんへ差上げたいと思って半襟(はんえり)を持って来ましたが 今中川さんへ寄ったら此方(こっち)へおいでだということで急いで遣(や)って来ました。これがその半襟で」 と恭(うやうや)しく風呂敷包を取りて包み紙の折れぬよう大切そうに披(ひら)き、 大奉書に大水引のかかりたるを取出(とりだ)したるが大熨斗(おおのし)の先の斜めに折れたるを手にて撫(な)で 展(の)ばし「お登和さん失礼ですけれども」と勿体(もったい)らしく差出たり。

お登和はいよいよ気味が悪し「イイエそんなものを戴きましては」と辞退して受けそうもなし。 妻君大原の様子がおかしきに堪(た)えねど笑うにも笑われず 「お登和さん、折角(せっかく)のお土産(みやげ)ですから」と大原のために言葉を添ゆる。 大原はお登和嬢が謙遜(けんそん)して受けぬと思い 「中川さんにも今そう申して来ました。お受け下さらんと僕の志(こころざし)が無になります。 これはわざわざ貴嬢(あなた)に差上げるつもりで近頃新製の珍らしい半襟を択んだのです、どうぞ御受納下さい」 と手を出してお登和嬢の方へ押し遣(や)る。

お登和嬢はしり込して身を退去(すさ)る。妻君が仲に入(いり)て頻(しきり)にお登和嬢を説きければ嬢も詮方なく 「それでは戴きましょう、ありがとうございます」と不勝無性(ふしょうぶしょう)に受けて脇へ置きしまま中の品を見んともせず。 大原は張合(はりあい)なさそうに嬢の顔を眺めている。妻君も遂(つい)におかしさを堪(こら)え得ず 「大原さんが半襟をお買(かい)なすったのは生れてから始めてでしょう、どんな品をお見立なすったか。 お登和さん、外(ほか)のお方(かた)でないからここでお見せなさいな」

お登和は別段に見たくもなき様子にてただハイと包みたるままを妻君に渡す。 妻君先ずその大水引と大熨斗に驚き、お登和のおらぬ時ならば早速悪口を利(き)き出さん場合なれども お登和嬢の前にて大原を軽蔑するように見せては後(のち)のため悪(あ)しかりなんと笑(わらい)を忍び 「お登和さん出して見てもようございますか」お登和「ハイ」と気のなき返事。

大原は早くお登和嬢に品物を見せしめて悦(よろこ)ぶ顔が眺めたしと心も窃に躍るばかり。 妻君は定めて上等の縮緬(ちりめん)に花など縫(ぬ)いしたる立派な襟ならんと思い、 そうっと水引を抜き、大切に包み紙を披(ひら)きて中の品物を取出し「オヤ」と一声(いっせい)叫びぬ。 お登和もちょいと覗(のぞ)きて驚きたる様子。大原心の中(うち)に 「なるほど非常の珍物だ、この人たちがこんなに驚くほどだから」と内々愉快に堪えず。

コメント:
ちょうど大原を話題にしていたところに、ご当人が登場してしまう。 噂をすれば影とは、現実にもよくあることで、気を付けなければならないでしょう。 「もしや妻君が我身をあの人に世話せんとする心にはあらぬかと気味の悪きように覚えて」と 間が悪いところに大原は来てしまったようで、お登和は引いてしまいます。 そんなことは知らずに贈物を渡すものの、妻君の助け舟でようやく贈物を受取ってもらい、さらに内容を確認するに及びます。 書生たちに騙されたことを知らずに大原は、お登和の心をとらえることに大きな期待をかけるのですが、 期待通りに妻君ともども大きく驚いてくれた。しめた!と大原はしたり顔になったものの、 その驚きの意味を知っている読者には、また違った愉快に堪えずに至ります。 果たして、どうなってしまうのか。